[G検定 合格者インタビューvol.5]ディープラーニング × データ活用による新しい価値創出
就職・転職のための情報プラットフォーム「OpenWork(オープンワーク)」を運営するオープンワーク。かねてから転職サービスのスキルマッチングに課題を感じていた同社代表取締役社長の大澤 陽樹(おおさわ はるき)さんは、「ディープラーニングで転職・就職マッチングを変えたい」と、G検定取得のための勉強を始めた。その後、「OpenWork」では新機能を続々とローンチ。転職・就職の失敗を無くし、日本の働きがいや労働生産性向上を目指す大澤さんに、ディープラーニングやAIを学ぶ意義を聞いた。
G検定合格者プロフィール
G検定2020#3合格
大澤 陽樹さん
オープンワーク株式会社 代表取締役社長
ディープラーニングの知識が無いと議論すらできない
――まず、G検定を受験されたきっかけを教えてください。
大澤:ディープラーニングによって転職・就職マッチングを変えたいと思ったからです。当社は、日本最大級の「働く」に関する様々なデータが蓄積されたプラットフォーム「OpenWork」を運営しています。現在では約1200万件以上の社員クチコミや評価データを保有しており、2007年の創業以来、社員クチコミのパイオニアとして成長してきました。
一方、2017年に公表されたアメリカの調査会社・ギャラップ社が実施した従業員エンゲージメント調査によると、日本企業は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%で、139カ国中132位。日本は依然として働きがいが最低水準の国です。経団連やトヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を続けるのは難しい」という発言をしているように、「会社が嫌でも居続けたら給料が上がる」という時代は終焉を迎えつつあります。しかし、転職や就職をする際には、これまでの勘や経験でマッチングが促されてしまい、結果的に後悔を感じているビジネスパーソンが多いのも事実です。転職・就職の失敗を無くしていくことで、働きがいや労働生産性が上げていく――定性データを含め豊富なデータを持っている当社こそが、ジョブマーケットに一石を投じるようなことに挑戦していかなければならないとかねてから思っていました。
しかし、経営のトップに立つ私自身にディープラーニングやAIへの知見が無いままでは、会社の方針を明示することはできません。当社にはデータサイエンティストやデータアナリスト、データエンジニアも多く在席していますが、そういった人材と私が会話できないと良いプランニングもできず、新しいビジネスを作ることはできないという課題を持っていました。
そのような時、たまたま私の大学時代の後輩で、AI人材の教育事業を展開する経営者とたまたま会い、悩みを打ち明けたところ、G検定の存在を教えてもらいました。そこで、藁にもすがる思いで講座を受講し、2020年3月に受験しました。
――かねてから、「データサイエンティストの方たちと対等に議論し新しいビジネスやサービスを産んでいきたい」という課題をお持ちだったんですね。
大澤:そうですね。転職サービスは、データに基づいてマッチングがなされていますが、その精度はまだまだ低くユーザーの満足度も低いです。その理由は、求職者の履歴書と求人をマッチングさせるだけのスキルマッチングだから。当社の調査によると、ミスマッチが起きる要因は年収ではなく、仕事内容や組織風土、入社後の配属ミスなどのソフト面にあるとわかっています。
だからこそ、転職サービスは単純なスキルマッチングではなく、「OpenWork」に投稿されている自然言語も含めた社員クチコミを分析してマッチングさせていくことが大事だということは、ディープラーニングを学ぶ前から思っていました。ただ、当時は「自然言語処理」と言われても何のことかわからないし、おそらくデータサイエンティスト側にも「大澤さんはこういうの苦手だから、話しても通じないだろうな」と思われていたと思います。「社会のためにこういうことをやりたい」と思っても、僕の知識が無いと議論すらできない。そのもどかしさは痛烈に感じていました。
――実際に勉強されていかがでしたか?
大澤:G検定の存在を知るまでは、何から手を付けたらいいのかがわからず、本などを探してもよくわからなくて妥協してしまっていました。G検定のいいところは、体系立てられていて、人工知能の歴史から数学的な背景、論理から学べることです。「何を勉強したらいいのか」と迷子にならず、とても効率よく勉強できました。
新しい適性検査サービスを開発
――G検定の学習前後で、実際に業務への影響はありましたか?
大澤:大きく変わったことは2つあります。まず、社内のデータサイエンティストやデータアナリストと議論することができるようになりました。データサイエンティストやデータアナリストはデータ・エンジニアリングに強く、僕は戦略・戦術などビジネスサイドについて経験が長いです。この2つの知識が合わさるともっと良い開発ができると思っていました。今まではマッチングのルール設計がどうなっているかと尋ねても、完全には理解することができませんでしたが、G検定の受験後は、データサイエンティストに「決定木の分岐はこうなっています」と言われたときに、「ああ、こうなっているんだ」とわかるように。「だとしたらここの分岐はこういうふうにした方が良くないですか」「もっとこんな分析をしてもらってもいいですか」という対話が初めてできるようになったんです。
また、「何ができないか」もわかるようになりましたね。人工知能やディープラーニングは「何でもできそう」と思いがちですが、やはり限界があり、当社が持っているデータによってできることとできないこともある。それが、G検定を学んだ後は「これはできないよね」「ここの領域はまださほど研究が進んでないからまだ難しいよね」ということもわかるようになってきました。
――新しく開発した機能やサービスはありますか?
大澤:「OpenFinder(オープンファインダー)」という、自分の性格や価値観に合った企業を教えてくれる適性検査です。例えば、「変化を好む挑戦者タイプ」だと診断されたとします。そうすると、同じ性格・価値観の人が、どの会社に所属していると高い評価をしているのか・良いクチコミを書いているのかを、「OpenWork」内のクチコミデータなどから算出。「どういう企業に入ると働きがいが極大化し、高い評価を得られるか」を知ることができます。
このアルゴリズムは、ユーザーデータをクラスタリングし、複数タイプに分類・ラベリングします。僕自身は難易度の高い数学モデルを作ることはできませんが、「こういうふうにやれば、タイプ分類ができて、“このユーザーさんはこの企業にマッチする”という、UIが作れそうですよね」と、データサイエンティストのメンバーとスムーズにコミュニケーションを取れるようになりました。
まだ検討段階ですが今後、「この会社に応募する際の注意点」や「この企業で働くメリット」などを複数のデータから自動で導き出すシステムが作りたいなと思っており、今まさに、まずは教師データ作りを僕が主導して進めています。それをシステムに落とし込んでいく作業はできませんが、どういう設計にしたいかまではできるようになったのは、全てとは言わないですがG検定のおかげだと思っています。
――先ほど、「社内のデータサイエンティストからは『大澤さんに話しても通じないだろう』と思われていたと思う」とおっしゃっていました。G検定取得後、その印象は変わったという実感はありますか?
大澤:僕の理解や知識はまだまだ甘いながらも、「議論してくれる」「以前より理解して、話せるようになった」とは思ってくれているのではないかと思います。
おそらく、データサイエンティストの方も孤独だったと思うんです。僕がよく「これやって、あれやって、これもやりたい、あれもやりたい」と言っていたんですが、今振り返ると本当にとんちんかんなこと言っていたと思います(笑)。でも、社長の理解が無いせいで「そんなことできないです」と毎回厳しいことを言わなければならず、それは彼らにとって相当ストレスだったと思います。僕自身も「確かにこれはできないな」というのがわかるようになってきたので、ストレスが完全に無くなったわけではないと思いますが、少しは減ったんじゃないかなと、そう推察しています。
G検定を取って終わりではない、重要なのはその後
――デジタルの知識やスキルを持っているだけでは、新しいサービスや新しい価値を生み出していくことは難しいかと思います。実際にビジネスに活用していくために必要な考え方はどのようなことでしょうか?
大澤:わからないことに対して“知ったかぶりをしない”ことでしょうか。G検定の勉強前は、何となくわかったふりをしていたり、「それは入り込むとわからないからお任せします」といった感じで進めてしまったりしていました。基礎知識であれば、10数時間ほど努力して勉強すれば理解できることなので、わからないことをわかるようになっていく努力をすることは大事だと思います。
また、検定を受けたその後が非常に大事だと思っています。「知って終わり」「検定を受けて終わり」ではなくて、それを実務に使ったり、実際にデータを見に行って「こんなふうに分析してくれているんだ」と理解したりすることが第一歩だと思います。
――ディープラーニングやAIの勉強は、特にどのようなビジネスパーソンにお勧めしたいですか?
大澤:極論を言えば、データを価値の源泉とするビジネスに従事する方は全員勉強した方がいいのではないかと思います。データの蓄積性や公開性の重要度は日に日に増していますし、これからの時代は「データをどう価値に変えていけるか」がビジネスマンの基本スキルになっていくように感じています。日本の労働生産性を上げていく中で、人工知能は避けては通れない、大きなキーワードです。専門スキルを持った方はG検定を受ける必要ないかと思いますが、「人工知能はわからない」「ディープラーニングはピンとこない」という人は、基礎知識として勉強することをお勧めします。
――G検定などでデジタル知識を学んだ人材の需要は高くなっていくと感じていますか?
DX人材と呼ばれる6つの職種のうち、実践・実装ができるITエンジニアやデータエンジニアの求人倍率は今非常に高いです。ただ、重要なのは、G検定を持っていることではなくて、その検定を取る過程で勉強したことを生かして、実務にどう生かせるかどうかです。「知っていると」「できる」は全然違います。履歴書においても、評価されるのは資格ではなくどんな業務経験があるか、どんな成果を上げたかです。G検定を取得するだけではそこにはたどり着かないと思うので、その過程で学んだことを生かして、実務にどう生かすかが非常に大事だと思います。
AIやディープラーニングは「自分の可能性や人生を広げてくれるもの」
――将来の予測が困難なVUCAの時代と言われる昨今、私たちに求められる能力は「問題解決力」から、課題そのものを見つけ出す「問題発見力」へとシフトしつつあります。AIやディープラーニングなどのテクノロジーについては、どのように捉えていますか?
大澤:大学院の研究室時代の恩師に口を酸っぱくして言われていたことで、今でも大事にしている言葉があります。それは「技術は手段であるということを忘れてはならない」です。「技術が先にあり、その技術を使って何ができるか」ではなくて、「『社会のどういう課題を解決したいか』が先にあって、その次に初めて技術が来る」と。ただ、「じゃあ学ばなくて良いのか」「目的ありきで、手段は何でも良いのか」というとそうではない。「自分が学んだことがないからといって、最新手段を選ばないのは間違い。その手段が最適解なのであればゼロからでも勉強すべき」「学習することから逃げてはいけない」と、恩師から言われ続けてきました。
それらの言葉は今でも通ずると思っています。変化が激しい時代だからこそ目的を見失ってはいけないし、その目的を実現するために手段を選んではいけない。アンラーニング・リスキリングしていくものがあるのならば、向き合ってしっかりと学ぶこと。もし、ディープラーニングや他の技術が必要なのであれば、逃げずに学ぶ必要があるんじゃないかなと思います。
――現在のディープラーニングやAIは、例えるならばどういう位置づけであると感じていますか?
大澤:表現が難しいですが、「もう1人の自分」、ないし「バトラー(執事)」でしょうか。私たち人間は常に意思決定をしながら人生を積み上げてきていますが、人間の脳で処理判断できることは限界がある。もし、もう1人の自分がいたら人生がとても豊かになったり、意思決定が楽になったりすると思うんですよね。そういう意味で、人生のパートナーとしても執事のような存在になり得るものかなと思います。また、セレンディピティな機会を創出し、自分の可能性や人生を広げてくれるものかもしれないですね。勿論、執事など雇ったことはありませんが(笑)。