[G検定 合格者インタビューvol.20]
バンソーロジスティクスの代表取締役の岸上 剛(きしがみ たけし)さんは、前職の会社員時代、長い海外経験の中でリスキリングの重要性を感じて大学院へ入学。このリスキリングが結果的に独立・起業につながり、岸上さんのキャリアに大きく転機が訪れることになる。学び直しやリスキリングを通じて向上心を高め、キャリアの可能性を模索している岸上さん。G検定の合格後の今は、どのような未来を描いているのだろうか。
【ポイント】
・海外駐在中、周囲が当たり前のようにリスキリングを行っているのを見て、学びへの関心を持つ
・リスキリングによって視野が広がりアイデアを得たことで、新規事業の提案に挑戦。そして起業へ
・現在創業6年目。キャリアが大きく飛躍したことで給与もアップ
・リスキリングでデータ活用の重要性を実感し、新たなビジネスの可能性を模索。さらなる学びへの向上心も高まる
G検定合格者プロフィール
G検定2022#3合格
岸上 剛さん
株式会社バンソーロジスティクス 創業者・代表取締役
香港で同僚たちが学び続ける姿勢に「目から鱗」
――まず、自己紹介をお願いします。
岸上:バンソーロジスティクスの創業者で代表取締役を務めています。当社は国際輸送事業を軸に、貿易事業や貿易物流に特化したクラウドサービスの構築・提案、海外戦略立案のコンサルティングの4つを事業ドメインとしています。アジア圏と北米を中心に多くのメーカーや貿易商社とお取引をさせていただいています。
前職は、東証プライム上場の大手国際総合物流会社にいました。13年間の勤務のうち、約9年間は海外で過ごしていました。香港で法人立上げとマーケティング責任者を、中国では拠点立上げと経営などを担当したのち、東京に戻って新規の事業部に。その後、過去に国内外で懇意にしていただいた取引先から支援をいただき、2018年にバンソーロジスティクスを創業しました。
――G検定を受験しようと思った動機を教えてください。
岸上:今後のビジネスにおいては、ますますAIとデータ利活用が必要になると考えたためです。昨今、AIやデータ分析、DXという言葉はよく耳にしていましたが、国際物流・貿易業界はアナログそのもの。いまだにFAXでのやり取りが通例ですし、関連企業や取引先とのやり取りも、一つの情報を同じプラットフォームで共有すれば1回のやり取りで済むはずなのに、同じ情報のやり取りが二重、三重、四重にも重複していくんです。「もっとデジタル化して簡素化・効率化できたら」と前々から思っていました。
しかし、私はこれまで全くこの分野の素養がなく、IT・デジタルリテラシーは皆無。いろいろな方のブログやホームページ拝見する中で、AI学習の登竜門として評判の良かったG検定の存在を知りました。そこで本腰入れて勉強してみようと思い受験を決意しました。
――デジタル領域のリスキリングの必要性を痛感されていらっしゃったのですね。これまで、リスキリングの必要性を感じた出来事や、まわりから受けた影響などはありましたか。
岸上:先ほどお話した通り、前職時代はキャリアの大半を海外で過ごしていました。中でも印象に残っているのが2006年の27歳の頃、香港に駐在していたときのことです。同僚の香港人の多くが、仕事が終わると慌てて事務所を出て行くんです。「不思議だな」と思いながら眺めていたのですが、ある日「なぜあんなに慌てて会社から出て行くの?」と尋ねました。すると「実は大学院に行っているんだ」と。「なぜ今更そんなに勉強をしているの?」と聞くと、「キャリアアップしたり給料を上げたりしていくためには、自分自身で学んでいかないとチャンスが来たとき掴めないじゃない」と言われました。しかも、1人ではなく、会う人ほとんどがそういった意識の持ち主でした。香港は大学を卒業して終わりではなく生涯学び続けていく環境が当たり前にあると知り、目から鱗が落ちる思いでした。
その後に転勤した中国でも、自ら学び続けてスキルや知見を高めていき、キャリアやライフスタイルの計画に反映させていく文化・環境があることを身に染みて感じました。帰国したときの日本でも、少しずつワークシフトやライフシフト、学び直しが賑わい始めていたところでした。私も大学院で勉強したいという思いが以前からあったので、2016年の38歳のときに国内の大学院に入り、それまで実務で培ってきた経営学の領域の勉強をし始めたのが私にとっての初のリスキリングでしたね。
いざ大学院に入ってみると大変でしたが、頑張れば頑張るほど新しいことが学べて、知らなかったことを知れる。とても心地いい満足感を味わえました。G検定の受験も「どうせだったら仕事に生かせることや、興味があることを勉強していこう」という思いの一環でした。そのような中、AIやデータ分析が時代の流れともちょうど重なってきたような感じですね。
――帰国後に大学院に行かれたのは、ゆくゆくは起業を見据えてのことだったのですか?
岸上:よく聞かれることなのですが、実は全く起業する気はありませんでした。前職の会社は居心地が良くて「定年までお世話なりたいな」と思っていたぐらいです。ただ、海外駐在を経て日本に戻り、会社に対して「もう少しこうやってくれたら、もっと良くなるのにな」という思いも募っていたのも事実でした。
そんな時、少しでも現状を変革したいとの想いから経営陣にプレゼンする機会をいただきました。「どうせやるんだったら」と計画書を1年ほどかけて練り、進退をかける覚悟でプレゼンに挑みました。しかし、力不足もあり通ることは叶いませんでした。それまで起業は全く考えていなかったのですが、妻からの「自信持って作った計画なんだったら、1回自分の手でやってみてもいいんじゃない」という後押しもあり、起業という選択肢が視野に入ってきました。「3年間と期限を設けて頑張って、もし芽が出なかったら潔くよく自分の力不足と諦めて、また企業人として戻ってきてやり直そう」と、2018年2月に現在の会社を立ち上げました。
著名な起業家さんのように「『社会を変えてやる』という熱い情熱を持って起業した」というストーリーは私にはなく、「気がついたらこうなっていた」という感じなんです。現在6期目に突入しましたが、まだまだ至らないことも失敗もたくさんあります。ただ、「独立して良かったな」と昨年ごろから思えるようになりましたし、給与面も会社員時代と比べると増えました。結果的には、リスキリングがキャリアアップにつながったと感じています。
G検定の学習で「第2、第3の共通言語ができた」
――G検定に向けて学習してみた感想を教えてください。
岸上:自分にとっての第2、第3の共通言語ができたことが大きいですね。AIについてある程度知っておかなければ、専門家の方やAI領域に携わる方と意思疎通が図れず、しっかりと仕事ができないなと感じていました。浅くても自分なりに勉強できたのは良かったです。
また、学習する前は「AI・人工知能」と聞くと映画やメディアの影響で、「仕事が無くなる」「機械が勝手に暴れ出す」という想像をしてしまっていました。しかし、現在のAIの技術動向や起こり得る複数のシナリオを学ぶにつれて、正しくAIを理解することの大切さがわかり、AIとの共存に重きを置く方がより現実的で建設的な理解を育めると思い至りました。
――合格後、知識やスキルの活用状況についてはいかがですか。
岸上:まだ始められてはいませんが、ゆくゆくは物流におけるサービス業として、システムを自分たちでクラウド構築して、SaaSの形でビジネス展開したいと思っています。収集したデータを自分たちで分析して、より良い経営判断につなげていければと思っています。これまでは、自分の経験や直感だけで仕事をやってきたところが大きいので、私がこの会社を離れたとしても、また新しい人たちが入ってきても、データを基盤に経営判断やお客様の満足につなげていくことは必要なはずだと考えています。
――G検定をきっかけに学ばれていることはありますか。
岸上:セキュリティについて広く全般的なことを学びたい欲求が出てきたので、ITパスポート試験に向けて今勉強しています。それが終われば、統計検定の4級から始めて、年内か来年までには2級まで取れたらいいですね。数理・データサイエンス領域が、「Di-Lite(全てのビジネスパーソンが、共通して身につけるべきデジタルリテラシー範囲)」に含まれているので、体系的に学んでいきたいなと考えています。
――学ばれる意欲がとても高くいらっしゃいますが、モチベーション維持の秘訣はありますか。
岸上:私はそれ以前は、全然勉強して来なかったんです。ただ、年を重ねるにつれていろいろなことを経験させてもらい、それに応じて新しい知識をつけたりかつて学んだことをもう1回勉強したりしていくうちに、物事を見る角度や感じ方、深さが変わったように感じました。実社会で学んだことが仕事や生活に直接活かせる、その楽しさがモチベーションになっていますね。
ただ、いかんせん試験は受からないといけないので、時には根詰めてやったり、時にはランニングやジムで脳みそ以外のところに汗かいたりしています。それで自分自身のバランスを取っていますね。
今度は大学院でデータ領域を学びたい
――リスキリングや新しい学びがご自身の向上心を刺激したり、新しい自分の理想像を描けるようになったという実感はありますか。
岸上:あります。以前は、YouTubeではテクノロジーやAI、データサイエンスの動画には全く見向きもしませんでしたが、G検定の学習を経て、今では「どういった人がこの業界で今有名なのかな」と本を読むようになりました。そこから視野が広がっていって、例えばYouTubeで若くて優秀な大学教授の方たち動画などを見ていると、政治の分野でも経営の分野でも、全てデータをとおして物事を見ていることに気がつきました。皆さん政治や経営の他にも、修士でデータや統計について勉強されているようで「やはり基礎にあるのはデータなんだな」と思うようになりました。
そのようなこともあり、また大学院に行きたいなと思っています。興味のある分野は散らかっていてやりたいことが多すぎるのですが、やはりデータのことを学びたいですね。データに関わることを勉強していけば、またいろいろ分野の人と出会い、それが自分の未来につながってくるんだと感じています。これまでの海外経験や、起業や経営の経験、そして今学んでいることを全て掛け合わせていくと、未知の自分になっていくんだろうなとワクワクしていますね。
――最後に今後の展望として、岸上さんが現在描いている未来を教えてください。
岸上:会社は自分の子どものように大切な存在ですが、ゆくゆくは私がいなくなってもしっかり会社が存続していけるような体制にしていきたいと思っています。一緒に働いてくれる人たちやこれから入ってくるであろう人たちを育成して、みんなでバトンをつなぎながら永続できる事業組織体にしていきたいです。まずは足元を固めつつ会社を拡大させながら、創業13年目には後継者にバトンを譲っていることが目標です。
また、趣味のスキューバダイビングを通じて個人的に環境保護、特に海洋保護に関心があります。物流業界と環境問題は結びつきが深いものですが、仕事でもプライベートでもボランティアでも、どのような形でもいいので関わっていきたいと考えています。小さい活動であっても、「世の中に貢献できている」と感じられるようなライフワークを見つけたいですね。