[G検定 合格者インタビューvol.18]ディープラーニング × 社内で広がるリスキリングカルチャー
社内でのAI活用を進めるべく、2020年にG検定勉強会が発足した野村證券。IT部門の有志の社員たちによってボランティア的に始まった勉強会だったが、現在では20を超える部門やグループ会社から参加者が集まり、G検定合格者数は300人を超えている。
G検定勉強会事務局の上田敬介さんと伊藤卓さんに、勉強会発足のきっかけや部門を超えた広がりにしていくためのポイントについて聞いた。また、事務局が制作している問題集アプリも活用しながらG検定に合格したビジネス・サイドの江本鎮男さんには、AIやディープラーニング領域の学習を続けるコツやモチベーションアップのポイントを聞いた。
G検定合格者プロフィール
G検定2020#3合格
上田 敬介(うえだ けいすけ)さん
野村證券株式会社 ホールセールIT部 兼 コーポレートIT部
G検定2020#3合格
伊藤 卓(いとう すぐる)さん
野村證券株式会社 コーポレートIT部
G検定2021#3合格
江本 鎮男(えもと しずお)さん
野村證券株式会社 当時 リスク・ソリューション部 兼 アセット・ファイナンス部 次長
IT部門の有志が集まり勉強会が発足
――まず、G検定勉強会事務局のメンバーであるお二人から、自己紹介をお願いします。
上田:私は、野村證券のフロントビジネスの中でも、特にグローバル・マーケッツというトレーダーやセールスがいる部署向けのIT担当をしています。グローバル・マーケッツの中には株と債券がありますが、債券側の部署を横断的にまたがるDXのプロジェクトを推進しています。
伊藤:私も上田と同じくIT部門に所属しており、主にバックオフィスのビジネス・サイドが扱っているアプリケーションのサポートやプロジェクト管理・推進を行っています。
――G検定勉強会事務局について。どういった経緯で生まれた組織なのでしょうか?
上田:IT部門を中心にAIに興味を持つ人が増えている一方で、実際にAI技術は有効活用されておらず、でもどこから手をつけたらいいかわからない、という現状がありました。そのような中でG検定の存在を知り、現在執行役員になっている当時のIT部門の部長が「やるぞ」と音頭をとって、勉強会を立ち上げることになりました。IT部門のメンバーで「一緒にやりたい」という有志が集まりボランティア活動的に始まった組織で、現在は5人のメンバーで運営しています。
勉強会は2020年6月からスタートし、現在は7期目に突入しています。勉強会は強制参加ではなく手挙げ制です。1期目はほぼIT部門のメンバーだけでしたが、2期目からは様々な部署に働きかけを行い、現在では合計20近い部署が参加してくれています。また、他グループ会社(野村ビジネスサービス)においても同検定への勉強会が発足し、多くの受験者数・高合格率を記録されております。
――勉強会発足の号令は、当時の部長からされたとのこと。IT部門でAI活用の機運が高まっていたという背景があるのでしょうか?
伊藤:発足の3~4年ほど前から、AI導入の成功事例をよく耳にするようになっていたと思います。例えば、AI-OCR一つとってもいろいろな会社が作っていると思いますが、我々ITがAIの基礎知識を持っていれば、この技術がどのようなビジネスニーズに活用できるのかを提案できる目利き役になれる。そういった意図もあったと思います。
――勉強会では、具体的にどのようなことをしているのですか?
上田:まず、数十人~100人単位の参加者を8~10人のチームに分けます。G検定の教科書にある章から、1人1章、自分の担当する章を決めます。勉強会は週に1回あるので、自分の担当する日が来るまでに教科書やインターネットで調べてわかりやすく資料にまとめます。そして勉強会当日に他のメンバーの前で発表して、質問にも受けて立つ、という流れです。
また、IT部門発ということで、通勤時間等の隙間時間でも自己学習ができるように「G検定問題集スマホアプリ」を自社開発しました。スマートフォンにインストールするだけですぐに使えるようになります。出題する問題は勉強会の参加者が作成しています。自分の担当の章の資料を作るのと同時に、アプリ用の問題も作成してもらえるようにフォーマットを用意しています。
役員・部長も自らG検定を受験
――お二人はG検定勉強会事務局の立ち上げメンバーとして第1回の勉強会にも参加し、G検定も合格されました。AIにはかねてから興味があったのでしょうか。
上田:私は、小学生の頃からプログラムを書いてゲームを作るほど、プログラミングが好きです。現在も趣味でプログラミングを書いているのですが、その中でディープラーニングや機械学習に興味を持ちました。AI技術は様々なシーンで活用できて有用性を感じたので、社内にももっと広めたいという思いがありました。いろいろな人に「AIはこういうことができるよ」と話せる知識を身につけるのに、系統立って整理された内容が学習できるG検定はぴったりだと思いました。
勉強会に参加しようと思ったのは、社内のAIリテラシーを高めたいという思いからです。AI技術が社内のどこに適用できるのか、どういうビジネスに展開できるのかは、IT部門の自分だけがわかっていても見つけられないんですよね。ビジネス・サイドの人も巻き込んでいくには、勉強会という形で広げていくのがベストだなと思っていましたね。
伊藤:書店等で機械学習関連の書籍が増えていると感じる度に「知らないと時流に乗り遅れる」という危機感を抱いていたものの、自分の業務とは直接的には関係無かったり多忙だったりして学習を先送りにしていましたが、G検定勉強会事務局立ち上げの話しが来た時に「思い切ってチャレンジしよう」と決めました。
そうと決めてからは何とか時間をつくり勉強に励みました。運営に携わる事務局側の立場としてG検定に落ちるわけにはいかないという気持ちもありました。基礎的なところから産業へどのように適用されているかという活用例が目に見えてわかるようになるうちに、どんどん面白くなってきました。
――勉強会参加者のG検定合格実績は。
伊藤:これまで野村證券と他グループ会社で合計406人が受験し、約75%にあたる304人が合格しました。年齢層も幅広く役員クラスから若い世代まで合格しています。G検定はAI関連の検定ですのでIT部門が専門部署と理解されがちですが、私共の「G検定勉強会」ではIT部門以外の部長・役員の方々も出席し合格しました。この事は社内でのAI知識の浸透やAIの活用を進める上で大変意義深い事です。
――他部署や幅広い層にまで、G検定受験の機運が広まっていった秘訣は。
上田:グローバル・マーケッツというフロントビジネスや、コーポレートと呼ばれるミドルオフィス、バックオフィスなど、他部署の役員にも掛け合ってトップのレベルで賛同を得られたことですかね。役員や部長の方々も危機感を持って自ら受験して合格しているので、その姿勢はトップダウンで伝わっているように思います。
伊藤:ベテランから若手まで共通して向学心が高いのは、野村グループの風土として感じ取ることができました。
――勉強会を全社的に広げていくために意識したことは。
伊藤:社内イントラネットに勉強会の様子やG検定の合格者数についての記事を作り、文化・機運を高めていきました。その記事を見て次回の試験に申し込みを希望する人も増えています。ポイントは、第1期で約80%という高い合格率を出せたことですかね。そのおかげで、他部門の人も「受験したい」と思うモチベーションにつながったのではないかと思います。
――G検定の合格者が増えたことで、ビジネスへの活用について良い影響は出てきていますか。
上田:社内に「データサイエンスイニシアティブ」という、同じくボランティア的に発足して、現在はきちんとした部署になっている組織があります。こことG検定勉強会でコラボし、圧倒的な数の受講者がいるG検定勉強会でニーズを探して、データサイエンスイニシアティブで開発をする、という取り組みを進めています。例えば、担当者の経験に基づいて価格予想を行っている業務に適用できないか、といった感じです。まだまだ道半ばではありますが、AI技術を適用できる場所を見つけていき、ビジネスとして形にできていけたらいいなと思っています。
コミュニティ参加で知識の退化・モチベ低下を防ぐ
――続いて、ビジネス・サイドの江本さんにお伺いします。まず、自己紹介をお願いします。
江本:ホールセール部門の中の投資銀行部門があり、その中の1部署にあたるリスク・ソリューション部に所属しています。上場企業のお客様を中心にオーダーメイド型のデリバティブの提供を行っています。10月からは別の部署へと異動になります。
――G検定を知ったきっかけや受験の動機は。
江本:G検定を知ったのは社内報で、最初は「こんなのがあるんだ」という程度でした。我々の部署は機密性の高いインサイダー情報を取り扱う部署なので、データを外部に渡すことはできません。そのため、AI活用の必要性に迫られているわけでもありませんでした。
受験するきっかけになったのは、友人から「知っておかないと本当にまずいよ」と脅されたからです(笑)。友人の話を聞いていると、お客様の方ではAI活用が進み、知らない間に自分たちとお客様との意識に乖離が起きていってしまうのではないかという危機感を覚えました。そこで、最低限の知識は持っておきたいと思い受験を決めました。
社内のG検定勉強会の存在は知っていたのですが、入り方が分からず参加はしていません。Zero to Oneさんの教材等を利用しながら、初歩的なところはカバーしていきました。ただ、試験を目前に控えて焦っていた時期に、伊藤が作った社内報の記事で問題集アプリの存在を知り、「勉強会には参加してないけどアプリだけは使わせてほしい」と事務局に連絡。移動中にスマホで復習するのにとても役立ちましたね。
――学習をしてみての感想は。また、受験前後で変化はありましたか。
江本:訳のわからないものを見るような感覚はなくなり、「AIは何ができて何ができないのか」がわかるようになりました。10月から異動する部署での業務は、未上場の企業向けの営業で、DXや業務の効率化の悩みを抱えているお客様に相対することが多いと思うので知識を活かせるのではないかと期待をしています。自分がAIサービスを提供するわけではありませんが、目利き役としてお客様の悩みを解決する提案を第三者的な立場になれればと思っています。
――日進月歩であるAI領域の学習を続けるためのポイントはありますか。
江本:僕は試験日に向けてギリギリまで詰め込んでいくタイプだったので、そうすると知識が失われていくのも早いんですよね。合格して1カ月ほど経つと、普段の業務でも使わないためほとんど覚えていないことに気づきました。
合格と同時に、G検定合格者のコミュニティ「CDLE」のSlackに招待してもらっていましたので、その中の活動の一つである課題解決型AI人材育成プログラム「CDLE AI-QUEST」に参加し、そこで初めて「企業がAIを実装していくとはこういうことなんだ」と体感できました。今は、経産省のデジタル推進人材育成プログラム「マナビDX Quest」にも参加していて、コーディングをやっているところで睡眠不足なんです(笑)。こういったプログラムはPBLなので人が用意した課題ではありますが、教科書を読んだりYouTube見たりして勉強するよりも、実際にSlack上で参加者同士で議論もしながら進めていくのでよりお客様の悩みを想像しやすく気が付きやすくなる。それは次の業務にも活かせそうだなと期待もしています。
CDLE のSlackに参加したことで、「CDLE AI-QUEST」の存在を知りモチベーションをキープすることができましたし、最新の情報にも触れられるようになりました。1人でずっと学習していくことはつらいので、上田と伊藤のように社内勉強会に身を置くことももちろん良いと思いますし、同じ言語で話せるコミュニティに属することは大事なんじゃないかと思います。
――最後にお三方から、今後の意気込みやキャリアビジョンについて展望をお願いします。
江本:日本は他国と比べて業務の生産性が低いという話はよく出てくると思いますが、その課題を解決するための一つの手段になるのがAIだと考えています。中小企業などAIを活用するべき人たちに対してアプローチするためには、AIの知識を持つ人が圧倒的に増えていかなければいけない。私が参加しているCDLEの「CDLE AI-QUEST」もAIに興味を持つ人を増やしていくための取り組みで、そこのグループリーダーの櫻井さんも「裾野人材を広げたい」と口癖のようにおっしゃっていますし、私もそれにはとても共感しています。今後も、そういったプログラムに参加しつつ、将来的にはAIを広げていく側の人材になれたらいいなと思います。
上田:私も本業ではまだAI活用にまで至らず、チャンスをうかがっている状態です。ただ、いろいろなデータはあるので、引き続きAI技術の伝道師として、AIを適用できるビジネスやエリアをビジネス・サイドの人たちと一緒に見つけていければと考えています。
伊藤:身近な業務の効率化にAIを使う、PoCをつくりたいなと思っています。それが達成できて社員全員にとってAIが身近な存在になれれば、一気にリテラシーも高まるはず。それは部門や会社にとってはもちろん、金融業界にとってもポジティブなことだと思います。