[G検定 合格者インタビューvol.10]ディープラーニング ×製造業のDX推進
製造業に特化したDX支援を行うオーツー・パートナーズは、AIやIoTを取り入れた設計・生産のDX実装や、既存技術を応用した新規事業開発のコンサルティングを提供している。取締役の勝見 靖英(かつみ やすひで)さんは、2020年秋にコンサルタント全員にG検定の取得を呼びかけ、自身も合格。現在、コンサルタントの取得率は8割を超えている。技術職ではないコンサルタントの“全員”に、G検定の取得を呼びかけたのはなぜなのだろうか。そして、これまで勝見さんがオーツー・パートナーズで手掛けてきたDX支援から見えてきた、日本の製造業の“DX遅れ”を変革していくために必要なこととは何なのだろうか。
G検定合格者プロフィール
G検定2020#3合格
勝見 靖英さん
株式会社オーツー・パートナーズ 取締役
社員にG検定取得を呼びかけたのは「一般常識として」
――製造業に特化したDX支援を行うオーツー・パートナーズさんは、AIをどのように事業に活用していますか。
勝見:日本の製造業の強みでもある、ベテラン技術者や職人さんの技術やノウハウ。これらの “暗黙知”を、我々コンサルタントが可視化してデジタルに変換し、形式知化・構造化します。それにより、業務効率化やプロセス改革を実現したり、言語化されていなかったものを整理することで技術伝承につなげたり、また新しい事業を創出するご支援をしています。
これらのアプローチの際に活用しているのが、AIをはじめとするデジタル技術です。以前は「AI」ということで特別視していた感覚もありましたが、現在はむしろ特別なものではなく、「使って当たり前の普通の技術」として活用しています。
――2021年秋からは、社内のコンサルタントの皆さんにG検定取得を義務付け、勝見さんご自身も取得されています。その狙いやきっかけを教えてください。
勝見:オーツー・パートナーズは、2016年にAI専門企業のLIGHTzを立ち上げたり、山形県の高校生にAIを教える「やまがたAI部」というプログラムに取り組んだりしています。他の事業会社さんに比べるとAIは近い存在だと思っていましたが、そういった取り組みに携わるメンバーは一部に限定されていました。
オーツー・パートナーズのコンサルタントの約8割はメーカーなど事業会社のエンジニア出身で、ものづくりの技術に知見を持った者たちが多い組織です。AIは「常識的に使うもの」という意識は共通して持ってはいるものの、最前線でAIに触れているメンバー以外は、断片的な知識しかない状態でした。体系立てた知識をきちんと身につけて、必要なもの・そうでないものが分かったうえでお客様へコンサルティングをしていくことが重要だと思い、取得を呼びかけました。
――手挙げ制などではなく、“全員”に取得を呼びかけたのはなぜでしょうか。
勝見:「一般常識」という認識だからでしょうか。コンサルタントの世界では、ロジカルシンキングやドキュメンテーション、ファシリテーションのスキルは“必須で身につけるべきもの”と言われています。しかし、「じゃあロジカルシンキングは全員が学ぶべきスキルではないのか?」という議論はありません。「自分は技術的にこの分野が得意だからロジカルに物事を考えなくていい」「自分はこの領域は他の人より秀でているから、ドキュメントをコンサルタントらしく作ることができなくてもいい」なんてことはなくて、これらのスキルはビジネスにおける一般常識。いわば“人前に行くときは洋服着て外に行くようなもの”です。
製造業のDX支援をしている我々にとっては、AIやディープラーニングの知識もこれらのスキルと同様で、一般常識レベルで身に着けておくべきものだと考えています。もちろん、その認識はかねてから従業員には発信していましたが、体系的に整理できるものとしてG検定を活用しようと思いました。
――合格実績はいかがでしょうか?
勝見:コンサルタントのメンバーが40人のうち、8割の約30人が合格しました。
これほどまで高い合格率なのは、社内でつくった学習サークルの存在が大きいかもしれません。2021年秋に取得を周知するより以前から、受験対策チームというものをつくっていました。最初のメンバーは、仕事の稼働状況を見ながら6人を指名。すでにG検定に受かっているメンバーに学習計画を作ってもらうなどしてアドバイスを受けながら、週1回集まり勉強していました。やはり学習効果は高かったようで、この6人はほとんど一発で合格しました。
そういった活動を横目で見ていると、僕もG検定を取りたくなってきたんですよね(笑)。学習サークルに入らず「俺も合格したよ」と言えたらちょっとかっこいいかなと思って、僕は独自で勉強していました(笑)。
G検定取得を全員に呼びかけてからも、研修会のようなものはどんどん立ち上がりました。オンラインで教えている様子を動画で撮ったものがアーカイブとしてたくさん残っていて、それを参考にしているメンバーも多いです。
合格者は口をそろえて「勉強して良かった」「面白かった」と言っているので、やはり身になる内容になっているのだと思います。僕も合格できたことで「勝見が取っているんだったら取ろうか」という雰囲気もあり、気がついたら放っておいてもみんなが自然と取得しようとしてくれています。
――現在でも、そのような自主的な学習サークルは続いているのですか?
勝見:続いています。私も、取得したきりで勉強を続けていないとどんどん忘れていってしまってもったいないですからね。8割強のメンバーが合格できたので、現在は応用編として、Pythonが書けるような環境で研修を受けられる体制をつくっています。また、G検定合格者の中から希望者を募り、E資格のための教育プログラムも提供しています。E資格の内容はコンサルタントの仕事と必ずしも一致はしませんが、「さらにその先に行きたい!」という気持ちのメンバーも多く、さらに勉強を頑張ってくれているようです。
水産加工業のDXを進めるプロジェクトで知識が役立つ
――G検定の受験前・受験後の違いについて。コンサルタントの方々の実際の業務に変化は起きていますか?
勝見:コンサルティングをする際の「手段としてのAI」という考え方を、さらに自然に発揮できるようになりました。お客様は、漠然と「とにかくAIを使いたい」とおっしゃることも多いですが、そのときに「じゃあAIを使いましょう」と軽く言うのではなく、どういうAIの技術を使えるのか、純粋にデータ分析をすればいいだけなのか、画像解析をしてプログラミングで中の処理を回すところまで必要なのかなど、一歩踏み込んだところまで思考できるようになっていると思います。
――具体的に、コンサルティングをうまく進めることができたプロジェクトを教えてください。
勝見:商空間の制作を手掛けるラックランドさん(東京・新宿)は、グループ会社のDXを推進して未来の工場に変身させる「未来ファクトリープロジェクト」を2020年10月にスタート。オーツー・パートナーズは戦略パートナーとして業務提携契約し、共同で推進しています。そのプロジェクト第1弾で、ラックランドさんのグループ会社で水産加工事業を行うハイブリッドラボさん(宮城県・石巻市)での業務改善に取り組み、AIソリューションを開発しました。
そのソリューションは、ホタテの質量をAIで自動推定する「AIセレクタ」というものです。水揚げされたホタテを工場で加工して出荷するまでのフローのうち、パッキング作業に着目。サイズや重さがばらばらのホタテの質量をAIで判定し、選別・組み合わせを指示してくれます。熟練した経験がなくても素早く選別やパッキングができるため、生産性向上などにつながります。
このプロジェクトのPMを担当したのが、まさにG検定を勉強し始めたばかりのメンバーでした(その後、合格しました)。ソリューションの開発・制作にあたっては、ラックランドさんの事業計画を理解したうえで、どういった設備が必要になるのか、また、AI開発会社とのソフトウェアの設計の議論も必要になってきます。当時は、G 検定の内容と業務がまさに結びつく感覚で、プロジェクトでは「この機能は、あの技術とあの技術をこうすればできます」と、アイデアとしていくつも出すことができました。そのアイデアがベストなものだったのかはさておき、特別な専門家に頼ることなく、かつ非常に早い段階で当たり前にたくさんのアイデアが出てくるところまで持ってこられたのは大きな収穫でした。このプロジェクト以外でも、「AIでここまでできる・できない」など、メンバーそれぞれが判断できるようになったことは大きな変化ですね。
――まさにひとりひとりのコンサルティングの質が上がっているということですね。
勝見:そうですね。ちなみに、今回のソリューションのポイントは、生産性だけでなく地元の産業も考えながら作ったことです。オーツー・パートナーズは製造業のDXを支援していくのと同時に、地方をいかに盛り上げていくかも大事にしています。
「工場の自動化」というと、殻剥きからパッキングまでロボットが全部やってくれて、人の介入が一切不要になる、というものがベストかもしれません。しかし、そのような水産加工工場で使われてきた自動化設備は何億円もするもので、地方の小規模な工場での導入は非現実的。今回の「AIセクレタ」は、安価なコストで導入できるのが大きな利点です。
また、工場は高齢な方が作業をされていることも多いですが、全て自動化すると仕事を奪ってしまうことになります。雇用を維持しながらも、10年も働かないと身につけることができないスキルはデジタルでカバーする。そうすることで、どんな方が来ていただいてもすぐに仕事ができて、熟練技術を持った担い手の高齢化という課題の解決にもつなげています。
G検定レベルの知識も持たず「DX推進」を掲げるのはおかしい
――「G検定は取得して終わり」「学習して終わり」にすることなく、実際のビジネスや業務改善に生かしていくために重要な考え方はどのようなことだと思いますか?
勝見:G検定に限らず、学習したものは使っていかなければ陳腐化して廃れていってしますので、いかに活用できる場があるかどうかだと思います。我々は事業としてDX支援をやらせていただいているので、そこかしこで知見を生かせる場がありますが、事業会社さんなどはそういった機会に恵まれることは意外と少ないのではないでしょうか。
AIやディープラーニングは「特別な人でなければできないもの、活かすことができないもの」という“常識”がある状況こそが、製造業のDXを遅らせ、ひいては日本の経済のスピード感を遅らせている一因ではないかと思っています。その“常識”は、地方や企業規模の大小に関わらず、我々が接している製造業さんでは非常に多い考え方です。
―― “DX遅れ”“古い体質”と言われる日本の製造業が、変革していくために必要なことは何でしょうか。
勝見:スイスの国際経営開発研究所(IMD)という機関が、毎年「世界デジタル競争力ランキング」を発表しています。2021年版では、世界主要64カ国のうち日本は28位。さほど悪い順位ではない感じがするかもしれません。しかし、他のアジア諸国を見ると、香港(2位)、台湾(8位)、UAE(10位)、中国(15位)など躍進する中、日本は2018年22位、2019年21位、2020年27位と、ここ数年で順位を落とし続けています。
このランキングは、全部で52の項目を集計して調査することで算出されています。個々の項目やそれらをカテゴリ分けするファクターにもそれぞれ順位がつけられています。
8位や18位など高い順位のものもありますが、着目すべきは「人材」(47位)と「ビジネスのスピード」(53位)のカテゴリです。「人材」の項目を見ると、「国際経験」は64位、「デジタル/技術スキル」は62位。「ビジネススピード」の項目を見ると、「商機と脅威に対する企業の反応速度」が62位、「会社の中の機敏性」は64位、「ビッグデータの運用と分析」は63位。世界で28位とはいえ、一部の項目は世界最下位レベルのものがあるいうことです。
これらの項目は、まさに日本のDXの課題の根幹となる部分。デジタルやAIを活用していくには、企業の変革やスピードを促す会社の組織やリーダーシップの発揮が最も重要です。しかし、国際経験しかり、技術スキルがなく運用・分析できなければデジタルデータの利活用はできません。デジタル技術を習得してもそれを支えるバックボーンはなく、企業形態として変革していくスピード感も遅いという状況なのです。
こういったAI・ビッグデータ、ディープラーニング、IoTを活用するには、ソリューションを覚えることも大事ですが、それ以上に必要なことは、それらを活用していく組織の構えと、リーダー・経営者の理解です。社員が自発的に勉強したとしても、組織やリーダーに活用する意識がなければ、さっさと会社を辞めて自分が学んだことが発揮できる会社へとどんどん流出していくでしょう。結果的に会社に残るのは、ガラパゴス化されたオールドスタイルの経営者と、オールドスタイルの仕事のやり方しかできないビジネスパーソンだけ。そういう人・会社が「DXに取り組まなければ」となったときには、DX推進部を作ってDX担当大臣を任命するだけで満足し、「うちはDXやっています!」とアピールをしがちです。
製造業のDXを進めるには、そういった“箱”を作って満足するのではなく、本質的に何をやるべきなのか、どういうスピード感でなければいけないのか、そこまでしっかりと経営者がコミットすることが重要です。AIやデジタルを学ぶのは、決してスペシャリストになることが目的ではなく、それを活用して自分たちの事業を成長させ、生き残るために変革していくため。その学習の入り口としてG検定は一つの選択肢だと思います。G検定に合格したからといって変革ができるわけではないと思いますが、最低限持つべきレベルとしては最適なので、ぜひ経営者の方にこそ取得してほしい資格です。これぐらいの知識も持たずして「うちはDXやっています」と豪語するのはちゃんちゃらおかしいと思いますね。
――最後に、今後の展望と意気込みをお願いします。
勝見:1980~90年代始め頃、日本の製造業は世界でトップクラスだと言われた時代がありました。その強みを今でもお持ちの会社さんは非常に多いですが、現在の世界の競争力にはなかなか勝てない状態になっています。産業の背骨でもある製造業をもっと盛り上げていくために、オーツー・パートナーズは今後も貢献していきたいです。
僕自身としては、プログラミングでひとかどの人間になりたいと思っています。これまで20年近くITコンサルティングやデジタルコンサルティングをやってきましたが、実際に自分でプログラミングをしたことはほとんどありませんでした。ずっとプログラミングをしてきたメンバーにはとても追いつかないですが、同じぐらいに始めた若手には負けたくない(笑)。いつか、「こんなのもできないの?」とさらっと言うのがささやかな願いです。