【人材育成 for DX】開催レポート #2「SMBCグループにおける『全従業員向け』デジタル教育」

ゲスト:三井住友フィナンシャルグループ 松尾 翔 氏

JDLAでは、デジタル人材育成に積極的に取り組む企業から学ぶ、無料ウェビナー「人材育成 for DX」を開催しています。このセミナーでは、DX推進の鍵となるデジタル人材育成に関して、毎回企業ゲストをお招きしながら様々な実際の取り組みをご紹介。そのノウハウを紐解き、お伝えします。

2021年10月18日(月)に開催した「人材育成 for DX #2」では、三井住友フィナンシャルグループの松尾 翔(まつお しょう)さんをゲストに迎え、SMBCグループのデジタル人材育成についてお話しいただきました。

登壇者紹介

三井住友フィナンシャルグループ IT企画部/三井住友銀行 システム統括部

松尾 翔(まつお しょう)氏

為替/デリバティブ、ALM、リスク管理等の業務経験を経て、海外与信管理システムの担当としてシステム企画業務に長年従事。その後、英国ロンドン現地法人に赴任し、IT統括、法規制対応案件等に多数従事。帰国後はIT戦略策定、IT投資運営の全体戦略部隊としてガバナンス戦略に従事。近年はデジタル人材育成業務も担当し幅広く活動。

JDLA 理事/事務局長

岡田 隆太朗(おかだ りゅうたろう) [モデレーター]

2017年、ディープラーニングの産業活用促進を目的に⼀般社団法人日本ディープラーニング協会を設立し、事務局長に就任。2018年より同理事兼任。緊急時の災害支援を実⾏する、⼀般社団法人災害時緊急支援プラットフォームを設立し、事務局長として就任。コミュニティ・オーガナイザーとして、数々の場作りを展開。

良いサービスを生む行動変革を取るか、何もせず消滅するか=DX or Die

まず、JDLAの岡田から本セミナーシリーズの趣旨説明とデジタル人材育成における課題意識を共有するとともに、デジタル人材に求められる能力をご説明。その後、松尾さんによるプレゼンテーション「SMBCグループにおける『全従業員向け』デジタル教育」がスタートしました。

「近年どんどん出てきているデジタル技術は『垣根を壊す』と言われています。今までは既得権益の中でビジネスができていたところに、デジタル技術が登場しました。お客様は海外勢や他地域同業、異業種・テック企業ともタッチポイントが増えている今、最後は『お客様にとっていかに良いサービスを生み出すか』の勝負になると思っています」

「既得権益もなし、垣根も壊れて真っ平らになってしまった今。何もせず消滅するか、または変革行動をして良いサービスを生み続けていくのか、我々はこの2択に迫られています。ここで登場するのがDXです。『DX or Die』という言葉もよく聞かれますが、目覚ましい価値を秘めたデジタル技術を使って、良いサービスを生み出すための変革行動をしていくことが求められているのです」

「攻めと守り」の両輪でDX化を進める

「弊社では、DXを4象限で表現しています。上の段が新規事業、下の段が既存事業。左側が『既存の価値改善=守りのデジタル化』、右側が『新しい価値創出(攻めのデジタル化)』という方向です。どの方向をやるかによって、ネーミングを変えています」

「我々がDXとして注力してなければならないと思っているのは右側です。デジタル技術を使って既存事業を変革し、売上を拡大していく。この右下の取り組みをDXと呼びます。さらに我々は金融業超え、デジタル技術を使って新規事業による売上拡大も目指す。この右上の取り組みをデジタルイノベーション(DI)と呼んでいます。世間では右側まとめてDXと一言で言うケースもあるかもしれませんが、弊社は『金融業を乗り越えてさらに新しい付加価値を生み出す』ことを強調するために、DI/DXと分けています」

「ただ、新規事業を立ち上げたり、売り方・売り物を変革したりすることは、片手間ではできないですよね。人員の余裕もありませんし、『DXだけやる』のは難しいと思います。そこで、余力をいかに生むかが大事になってくると考えます。弊社では全員が一丸となって、デジタイゼーション(守りのデジタル化)で、既存ビジネスの効率化やコスト削減をすることで生まれた予算の余力や人の余力をDX(攻めのデジタル化)にシフトしていく。この“攻め”と“守り”の両輪でDXをやっていこうとしています。

だからこそ、『全員』がポイントなのです。全員がDI/DXと、デジタイゼーションの両輪をやっていくのが大事だと思っています」

自社だけでなく、顧客のDXも一緒に取り組む

「さらにSMBCグループは次のステージに行こうとしています。

弊社は、2016年にデジタルIT専門教育組織『デジタルユニバーシティ』を社内に立ち上げました。IT専門人材や、一般従業員のITリテラシー教育を始めています。これを皮切りに、DI/DXの意思決定体制の構築から、チャレンジできる風土変革も含めて、様々な取り組みを行ってきました。

2020年には経営ビジョン再定義し、非金融分野への挑戦を加速することを掲げました。そのビジョンを基に、2021年から全従業員デジタル変革プログラムを始めました」

「経営ビジョンは『最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展する グローバルソリューションプロバイダー』です。大事なポイントが2つあります。1つ目は、“金融”という言葉が一言も入っていないこと。金融かどうか問わず、お客様にとっていかに良いサービスを生んでいくプロバイダになれるかを明確に示しています。2つ目は、『お客さま・社会と“ともに”』ということ。我々だけが収益が上がって喜ぶのではなく、お客様も社会全体も一緒に良くなっていくというメッセージが含まれています。

つまり、弊社の捉えるDXの次のステージは、『私たちのDXだけではなく、お客様のDXも一緒にやっていく・一緒にご支援する』。これをDXのビジョンとして再定義した上で、人材育成に取り組もうとしています」

作る人だけでなく、使う人も含めた教育を

「こちらが、弊社が目指す行動変革・人材像の表です。DX人材育成するにあたって、全従業員、営業人材、企画人材、戦略人材、開発人材の5つの人材区分を設けています」

「それぞれが目指すビジョンの軸となるのは、経営ビジョンの『最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー』です。営業人材は顧客接点でお客さまのDXを一緒に支えられる人になってほしい。一方で、本部の戦略・開発人材は、私たちのDXとして良いサービスをいかに生んでいくかを考えてほしい。ただ、お客様のDXや私たちのDXをやるには人の力も必要なので、全従業員がDXのための余力を捻出するためにデジタイゼーション・効率化を頑張ろうと考えているわけです。

こういったビジョンをもとに、人材ごとに目指す人材像を定義しています。これを一言で表すなら、『作る人だけでなく、使う人も含めた全従業員デジタル教育を』です。このビジョンをもとに、デジタル教育に着手しています」

学習プログラムは動画による自己学習、体験、継続、応用、相互の5本柱

「SMBCグループ全従業員向けデジタル変革プログラムには、5つポイントがあります。1点目は、SMBCグループ全従業員5万人が対象であること。2点目は、完全オンライン型のデジタル基礎学習プログラムになっていること。3点目は、知識詰め込み型ではなく、マインド重視の学習であること。『なぜ私が学ばなきゃいけないのか』を腹に落とすような内容になっています。

4点目は、プログラムは動画による自己学習、体験、継続、応用、相互の5本柱で構成されていること。まず、好きな時間にいつでも見られる計5時間ほどの動画を用意しています。『なぜデジタルを学ぶのか?』というマインド重視の学習です。その後、動画で見た内容を振り返って体験できるワーク体験型のワークショップ研修があります。そして、継続学習アプリで、現場で実践できるDXコンテンツを配信し継続的な学習をサポートします。続いてが、リスキリングをキーワードに、さらに新しいことにチャレンジしたいという意欲ある従業員が学べるような応用学習のコンテンツを用意しています。最後は、生きた情報を交換し、相互に学び合えるSNSコミュニティを運営しています。これらの5本柱で、確実に行動変革につながるようなプログラムを組んでいます。

5点目は、コンセプトストーリーを「PLANET 肺魚」としていること。ただのお勉強ではつまらないので、弊社従業員を“金融という海で泳いでいる魚”に見立てたストーリーになっています。この魚が心臓や肺、足を獲得して、緑豊かなデジタルの大地にも踏み込み、地球全体を活動領域にしてもっとビジネスを大きく豊かにしていく。魚から陸生成物への進化になぞりデジタル学習を進められるようにしています」

「面」としてデジタル学習機会を提供

「①5時間動画、②ワークショップ研修、③デジタル継続学習アプリ、④応用学習コンテンツ、⑤SNSコミュニティ、これら5つの学習プログラムは“面”として捉えています。表の左側がマインド・リテラシー・スキル、下側が自己学習・体験・継続・相互となっていますが、左下から右上へ流れていくような形で面をつくることを意識しています。JDLAさんが提供されているG検定やE資格も、まさに面の中で『チャレンジしてみたい』人のためにつながっています」

続いて、質疑応答の模様をレポートします。

座談会・質疑応答

プレゼンテーション終了後、モデレーターの岡田と座談をしながら、参加者からの質問にお答えいただきました。個別の質問とともに、参加者から特に気になるテーマを投票していただくスタイルで進行します。特に「デジタルリテラシーの浸透状況」への関心が高い参加者の方が多いようです。

まずは岡田からの質問をご紹介。

――マインドセットから始めた全従業員向けプログラムですが、受け取り手(従業員)の反応どうでしたか?

「弊社の社員も求めていました。特に営業部隊は、お客様のビジネスをどう立ち上げていくか・さらに拡大していくかを考える上で、デジタルが不可欠です。基礎から、かつ実際のビジネスに即した形で学べる機会があって欲しかったと現場は捉えています」

――従業員の皆さんは「DX or Die」といった危機感から火がついたところもあるのでしょうか? 

「実はそれはありません。嫌な言い方かもしれませんが、弊社は規模の大きい会社なので、DXをやらなくても当面死なないんですよね。マインドセットの動画は自社制作で弊社の従業員を主語にしています。それは、外で買った動画で『DXやらないと死んじゃいます』と言われても心が動かなかったからなんです。弊社はお客様に喜んでもらうのが一番のモチベーションなので、そこに訴えるためにオリジナルで動画制作しました」

――全従業員プログラムについて、成果についてはどう捉えていますか? 

「成果はこれからだと思っています。実績としては、全従業員のうち約40%が動画を視聴し、ワークショップ研修は延べ3000人が受講をしています。具体的に収益に繋がったというわけでありませんが、予想外の変化も生まれています。営業部署から、『こういう勉強会や研修やってくれないか』と、現場起点の研修企画が上がってくるようになっています」

――“金融”という言葉が入っていない経営ビジョンを共有することが大きなポイントとお話がありました。ただ、中には会社を動かしたいのに「なかなか動かなくて困っている」という企業もあります。

「経営から常に『チャレンジしよう』『殻を破ろう』と言い続けてきました。人事部も『銀行員を超えていこう』という言葉をキーワードに人材教育をやっています。一つ大きな経営ビジョンが明確に定まっているからこそ、経営も人事も私のいるITも、全員がそちらを向き並走しながら取り組むことができたんだと思います。悩まれている会社様も多いと思いますが、経営のビジョンや大きな方向性を定めると必ず後々生きてくるので、力を入れるべきだと思います」

――目指す人材像を定めるにあたり、参考にされたものは?また、うまく決めることができた秘訣は?

「これもビジョンに尽きます。弊社社員をどうしたいかよりも、お客様が喜ぶために、弊社社員は何を学ばなきゃいけないかという順番で教育人材像を考えました」

次に、参加者から寄せられた質問の一部をご紹介します。

――中高年向けにやっている取り組みはありますか? 

「中高年向けで明確に取り組んでいることはありませんが、DXの勉強会をやる際は、手挙げ式ではなくあえて部店ごとに実施しています。部署の部長から若手まで全員が参加する勉強会を行うことで、若手チャレンジしたいときに『確かにDXは大事だよね』と上の立場が理解を示しながら一緒になってやってくれる。そこに繋げていくのが狙いです」

――役員や部長級への意識改革は行っていますか?

「実は、そこまで苦労していないんです。この教育プログラムは全てお客様のために繋がっているからこそ、反対する人がいないんです。『DXはお客様のために本当に必要です、お客様も求めています』と言ったら、部長も役員も『そりゃそうだよね』と納得する。『今の仕事を優先しろ』なんて言わないですよね。起点がお客様や社会にあり、そのような一つのぶれない軸があるからこそだと思います」

最後に岡田からJDLAの狙い、企業会員、行政会員、各資格事業のご説明させていただき、大盛況の中セミナーは終了となりました。

オンラインセミナー「人材育成 for DX」は今後もさまざまな企業の実践者をお招きし、月に一回のペースで継続して皆様にデジタル人材育成の事例をご紹介してまいります。

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