
株式会社IDホールディングスは、生成AIを活用してグループ最高経営責任者である舩越氏の思考や哲学を忠実に再現した「舩越社長AI」を社内向けにリリースするなど、ユニークな取り組みを展開しています。このイノベーションの中核を担うのが、AI専業企業として2024年に設立されたID AI Factory(以下、AIF)です。
前編では、黒住好忠社長がG検定とE資格合格に至るまでの経験や、これらの資格がもたらした社内外への影響について詳しくお伝えしました。
後編では、AIF設立の背景、同社が推進する「AI予算1%戦略」の狙いとその効果、さらに人材育成を通じて描く未来の展望に迫ります。
プロフィール

株式会社 ID AI Factory 代表取締役社長
黒住 好忠氏
AIF設立の背景
IDホールディングスのビジョンから生まれたAI専業企業

ー設立の経緯について教えてください。
黒住:IDホールディングスの舩越真樹社長が「AIを本格的にやるべきだ」というビジョンを掲げたのが始まりです。2023年末に「AIに関する計画をまとめるように」という指示を受け、その後「チームではなく会社を作ろう」という方針が示され、2024年4月にAIFが設立されました。
その設立の背景には、グループ全体のAI戦略を推進するという明確なビジョンがあり、AIを活用した業務効率化や新たな価値創出を目指しています。
内部効率化と外部向けサービスの二本柱
ー具体的には、どのようなサービスを提供しているのですか。
黒住:大きく二つの柱があります。
1つ目はグループ会社向けの取り組みで、開発業務や事務作業にAIを取り入れた業務効率化の支援です。社員がAIツールを効果的に活用できるよう、研修やサポートも充実させています。
2つ目は社外向けのサービスで、企業の開発支援や事務業務の効率化を目的としたAIツールの提供です。これらを通じて、クライアント企業の業務改善に貢献しています。
社内外に広がるAI文化
開発部門の社員3割がG検定合格!社内教育の成果
ーG検定を活用した社内の取り組みについて教えてください。
黒住:G検定を受けた後、実際の業務で活用できるよう、AI関連の試験に幅を持たせた取り組みを進めています。これにより、社員一人ひとりがAIの基礎知識を深め、実装や応用に役立てられる環境を整えています。最終的には、全社員がG検定レベルの知識を持つことを目指しています。
ー現在、どのくらいの社員がG検定に合格していますか?
黒住:開発部門の社員約800名のうち、30%がG検定に合格しています。部門内ではすでにAI活用が当たり前の文化として根付きつつありますが、全社的にはまだ課題が残っています。それでも、AIに対する社員の意識は確実に高まっていると感じています。

一気通貫のAIサービスで差別化を図る
ー他社との差別化についてはどのようにお考えですか?
黒住:AIベンチャー企業は専門性が高い一方で、実際のビジネスシーンでAIをどのように活用すべきかについては詳しくない場合があります。一方、私たちはこれまでシステム開発で培った経験を活かし、コンサルティングから設計、開発、運用、メンテナンスまで、一貫して対応できる体制を整えています。
ー具体的には、どのように対応されていますか?
黒住:例えば、お客様の課題をゼロから解決する体制を構築しています。AIプロジェクトの初期段階からシステム設計、運用後のメンテナンスまでトータルでサポートすることで、単なる技術提供に留まらず、課題解決に直結する成果を生み出しています。また、AIはあくまで「道具の一つ」として位置づけており、お客様の実現したい目標に対して、どのようにAIを活用すべきかを全体的に考える姿勢を大切にしています。
ーこの一貫した体制にはどのようなメリットがありますか?
黒住:他社に一部を依頼する形だと、問題が生じた際に責任が分散し、お客様の負担が増えることがあります。私たちはグループ全体でプロジェクトをカバーできるため、安心感を提供できるだけでなく、プロジェクトのスムーズな進行も実現しています。この「すべてをカバーする一貫性」と「グループの総合力」が、私たちの最大の強みです。
AI文化を浸透させる「予算1%戦略」
ー「1%のAI使用料」という仕組みを導入した背景を教えてください。
黒住:この取り組みは、社内向けにAIを活用する際の費用設定として導入しました。各プロジェクトの売上の1%を「AI使用料」として、AIFに支払う仕組みです。例えば、売上が30億円の場合、その1%である3000万円をAIFに支払います。この仕組みにより、AIの利用が企業全体で促進され、各部署でAI活用が当たり前の文化として定着しました。
ー「1%のAI使用料」とは具体的にどのような仕組みですか?
黒住:支払われた「AI使用料」をAIの開発や運用に活用する仕組みです。また、固定料金ではなく、売上に応じた形を採用しているため、必要な分だけ柔軟にAIを利用できます。プロジェクトごとにAI活用を促進するインセンティブにもなり、全体 の効率向上にもつながっています。
“AIを使うことが当たり前”という文化の醸成
ーIDグループとしては、AIの導入をどのように進めていますか?
黒住:この「1%戦略」は単なる費用設定ではなく、AI利用を推進するための啓蒙的な意図を含んでいます。「AIを使うのが当たり前」という意識を醸成し、AI活用が自然に標準化されることを目指しています。使わないという選択肢をなくし、むしろ積極的に使う文化を育てるための施策でもあります。この仕組みを通じて、社員一人ひとりがAIの価値を実感しながら日々の業務に取り組めるよう支援しています。
ーグループ全体にはどのような変化がありましたか?
黒住:この取り組みを通じて、グループ全体が「AIを使うのが当たり前」という意識に切り替わりました。その結果、業務の効率や成果が向上し、AIの活用を通じてお客様にも安心感を提供できる体制が整いました。
人材育成と未来を見据えた取り組み
ーこれから御社としてどのような人材を育成し、どんなことを目指していきたいですか?
黒住:まずはAIを技術的に深く理解し、実装・運用できる技術者を育成することです。また、AIを使ってお客様の課題を解決できるコンサルタント的な人材も重要です。さらに、グローバルな視点を持ち、英語でAIの活用法を広められる人材の育成にも力を入れています。
AIは特別な技術ではなく、パソコンやワープロソフトのように当たり前に使いこなせるツールになるべきだと考えています。社員全員がAIを自然に活用できる文化を築くことを目指しています。