
2024年、株式会社IDホールディングスのグループ会社として設立され、同年11月に日本ディープラーニング協会(JDLA)の正会員企業となったID AI Factory(以下、AIF)。「AIで人間社会を豊かにする」という理念のもと、AIコンサルティングやソリューション提供、そして人材育成に取り組み、時代の変化に柔軟に対応し続けています。そのトップを務める黒住好忠社長は、個人の好奇心を原点に、AIへの情熱を深め、資格取得をきっかけに企業の未来を切り拓いてきたリーダーです。
前編では、黒住氏のキャリアやG検定を通じたAIの学び、そしてAIF設立に至るまでの背景について詳しく迫ります。
プロフィール

株式会社 ID AI Factory 代表取締役社長
黒住 好忠氏
技術への情熱がキャリアを切り拓く
ーこれまでのキャリアについてお聞かせください。
黒住:私が入社したのは2002年です。当時は現在のIDホールディングスではなく、その前段となる「インフォメーション・ディベロプメント(通称:ID)」という会社でした。その後、2019年4月に持株会社制へ移行し、IDホールディングスが設立されました。入社後は主に企業向けのシステム開発に携わり、銀行のシステムや空港の飛行機整備システムなど、大規模なBtoBプロジェクトを手掛けてきました。この業界では、プログラムの実装やテストを経験し、その後設計を経てプロジェクト全体の管理を任されるという、王道的なキャリアステップが一般的です。
一方で、会社内では「これだけがキャリアの選択肢で良いのか」という議論が生まれ、新たな道が模索されました。その結果、技術を極める専門職として、テクニカルスペシャリストやフェローといったポジションが導入されました。この新しいキャリアパスは、管理職路線とは異なり、技術者としてのスキルを深めながら組織に貢献する役割を重視したものです。
“やっぱり技術が大好き”

ー新しいキャリアパスは黒住さんにどのような影響をもたらしましたか?
黒住:もともと私は管理職のポジションを目指すキャリアパスを考えていましたが、やっぱり「技術が大好き」という思いが強く、新たな道に大きな魅力を感じました。また、テクニカルスペシャリストやフェローが役員クラスの価値を持つポジションとして認められた点も非常に意義深いです。結果として、自分の得意分野である技術に集中しながら、組織に貢献する選択ができたことが、自分のキャリアにとって大きな転機となりました。
AIとの出会いとG検定の挑戦
ー技術者として、どのようにAIに興味を持つようになったのですか?
黒住:AIに興味を持ち始めたのは2010年頃です。当時、ディープラーニングが海外で話題になり始め、特に画像認識分野での活用が注目されていました。ちょうどその頃、趣味で撮影した写真のノイズ除去をAIで行えないかと考えたのがきっかけです。関連書籍を手当たり次第に読みましたが、最初の1〜2年はほとんど理解できませんでした。それでも試行錯誤を続け、少しずつAIの可能性に気づいていきました。
ーG検定に挑戦しようと思ったきっかけを教えてください。
黒住:AIの基礎知識を体系的に学びたいという思いが強く、G検定を受験しました。特に、AIの歴史や幅広い分野を学べたことで、AIという広大な領域の全体像を把握できるようになりました。
“勉強を始める前は、まるで地図のない街に突然放り出されたような感覚でした。
しかし、G検定を取得した後は、自分がどの位置にいて、
どの方向に進むべきかを明確に理解できるようになりました。”

ーその後、E資格にも挑戦されたのですね。
黒住:はい。G検定で得た知識を基に、より実践的なスキルを学びたいと考え、E資格にも挑戦しました。会社の研修費負担制度を活用しながら学びを進め、AIモデルの構築や実装スキルを習得しました。この経験が、社内で「AIの専門家」として認識されるきっかけになり、AI専属チームの立ち上げにもつながりました。
資格取得が広げる社内外の可能性
ー資格取得が会社に与えた影響について教えてください。
黒住:資格取得をきっかけに、AI専属チームが発足しました。それまでは、AIに関連する案件を断らざるを得ない場面もありましたが、今では「一緒に進められます」と自信を持って提案できるようになりました。この変化により、AI活用が自然に浸透し、中期経営計画にもAIが重要なテーマとして組み込まれるようになりました。
CDLEが支えるAIコミュニティの力
ー資格取得を通じて、どのような影響やつながりが生まれましたか?
黒住:資格取得を通じて得た知識や経験は、社内の取り組みだけでなく、外部のコミュニティとのつながりにも大きな影響を与えました。特に、G検定とE資格の合格者が集うCDLE(Community of Deep Learning Evangelists)での活動は、非常に心強い存在となっています。
ーディープラーニングで繋がる日本最大級のコミュニティ「CDLE(Community of Deep Learning Evangelists:シードル)」は、G検定・E資格の合格者のみが参加できる日本最大級のAIコミュニティです。現在、G検定の累計合格者が9万人を越え、E資格の累計合格者も8,400名を越えています。このCDLEをどのように活用されていますか?
黒住:AIを扱っていない会社が新たにAIの取り組みを始める際、孤独を感じる場面が多いのが現実です。しかし、CDLEのコミュニティに参加することで、同じ志を持つ仲間とつながることができました。特に、Slackを活用した情報共有の場では、社内にはなかった知見やサポートを得ることができました。このおかげで、AIに関する取り組みをスムーズに進められたと感じています。
会社全体へ浸透するAI活用の文化
ー資格取得が会社全体の取り組みにどのような変化をもたらしましたか?
黒住:資格取得が進むにつれ、AIに対する社内の意識が大きく変わりました。AI専属チームが立ち上がったことで、全社的に「これからはAIなしでは成り立たない」という認識が浸透しました。また、お客様からの「AIを導入したい」という要望に対し、それまで対応できなかった案件にも「一緒に取り組めます」と提案できるようになりました。結果として、AIを活用した新たなサービスの幅が広がり、会社全体でAIを重要なテーマとして捉える体制が整いつつあります。
後編では、AIFが推進する「AI予算1%戦略」の背景と、その取り組みがどのように会社全体へ影響を与えているのかを詳しくお伺いします。また、AIを活用した他社との差別化戦略や、人材育成を通じて描く未来の展望についても掘り下げていきます。