登壇者3名によるトークセッション
講演の最後に、登壇者3名によるトークセッション「デジタル人材育成の取り組みを進めるために」が行われた。進行役となったディープラーニング協会の岡田氏は、まず「何から始めたら良いのか?」というトークテーマをあげ、高橋氏に意見を求めた。
高橋氏は、「3検定(G検定、ITパスポート試験、データサイエンティスト検定)から始めるのが良い」と意見した上で、「ただし、いきなり『3検定を受けましょう』と号令をかけてもなかなか進まない」と述べる。そこで大事なのは、ツールや技術について「知る/気づく」機会を提供することだと持論を展開する。
高橋氏
例えば、先ほどお話にもあった、Power BIというツールがあったとしたら、それが実は業務で使えるんだと「気づく」よう促すことが大事です。
では、気づいた後はどうするか。ついつい「勉強してもらう」「資格を取ってもらう」と考えがちですが、そうじゃない。「使ってもらう」ことが大事です。そのために研修というものがあるのです。
では使ってもらった後はどうするのかというと、次は「慣れる」ことが大事です。
研修以外の場面でも使ってもらい、使い方を聞かなくても、一人で自然に使えるようになることを目指します。この段階まで進む人が出てくると、その中から一部の人たちが、実際の業務に「活かすこと」を始めます。このサイクルを繰り返すことが重要なのかなと思います。
次に岡田氏は、大林組ではどのような流れでデジタル人材育成を開始したのかと質問。倉形氏は、「トップメッセージが重要な起点になった」と説明する。
倉形氏
当社では、DX本部設立時に出したプレスリリース内に「デジタル人材育成」というキーワードを入れるなど、経営層がデジタル人材育成を重要だと考えており、それが上手く進める上で重要なポイントになっています。
経営層が理解し、デジタル人材の育成を強く発信したことにより、従業員が「デジタル人材の育成はとても大事なことだ」と認識し、積極的に学ぶ動機づけになったのです。
トップメッセージがデジタル人材育成の起点になったという話を受け、岡田氏は、国が企業の「人的資源経営」を後押ししていることをあげ、実は今「経営者が背中を押されている状況にある」との見解を示す。
岡田氏
(デジタル人材育成は)新しい資本主義の“人”への投資にも関わる取り組みなので、今はまさに追い風が吹いている状況にあると思います。このあたり、取り組みを始めるきっかけとして、活用していただければよいのではないかと思います。
続いて岡田氏は、「(デジタル人材育成を)進める上で意識すべきポイント」をトークテーマにあげた。倉形氏に意見を求めたところ、RPGゲーム「ドラゴンクエスト」に登場する「はぐれメタル」というキャラクターを例えたユニークな回答が示された。
倉形氏
皆さんは、「あの人、はぐれメタルだね」と言われたときに、何を言っているのかイメージがわきますか? 実は先日、妻が同僚に言われた言葉です。彼女は「はぐれメタル」という言葉を知らなかったため、非常に戸惑ったそうです(笑)。
はぐれメタルのことを、はじめから知っている人に説明するのと、全く知らない人に説明するのでは、ハードルの高さが全く違ってきますよね。私どもの教育活動は、このドラクエでいうところの、「ゲームを少しプレーしたことがある人を増やしていく」活動だと考えています。
研修を何回か開催していると、応用編の研修などを開催したくなります。しかし、まずは興味を持ってもらう教育を意識することが一番大事。誰に向け、どういった学ぶ場を提供するのかを考えることが、(デジタル人材育成を進める上で)最も重要なことかなと思います。
一方、高橋氏は、デジタルリテラシーを身につけた後に、どのようにスキルを身につけていくかべきについて意見を述べる。
高橋氏
特にマネジメントや管理職の皆さんにご理解いただきたいのは、迅速かつ前向きに意思決定することの大切さです。意思決定とは何かというと、「GOするか、NGか」のどちらかを決定すること。
ベンディングというのは意思決定じゃないんですね。でも、多くのプロジェクトはペンディングの状態になっています。実はDXの世界において、ペンディングするというのは、たぶん負けることです、意思決定が遅れるということですから。
こういったこともちゃんとご理解いただくためにも、(デジタル人材育成を進める際には)ターゲットそれぞれに向けた教育が必要だと思います。
最後に倉形氏から会場に向け、「社会全体がデジタル人材という言葉を意識せず、それが当たり前だと思える状態こそが、デジタル人材育成のゴールだと思います。そのゴールに向かって、皆さん一緒に頑張っていきましょう。」とのメッセージが送られ、講演は閉幕となった。