Profile
株式会社 日本総合研究所 データ・情報システム本部 次長
廣瀬 明子氏
株式会社 三井住友フィナンシャルグループ データマネジメント部 戦略企画グループ長
髙橋 一誠氏
積極的にE資格取得を目指す日本総研データサイエンスグループのメンバー
――SMBCグループは金融業界の中でも、いち早くデータ活用に着目し、専門的な取り組みをスタートしていたと聞きます。
髙橋氏 : その通りです。金融業界では、他に先駆けて、グループの中心的な役割を担う銀行や持株会社にデータを切り口にした部署であるデータマネジメント部を作り、今年度からは、グループCDAO(Chief Data and Analytics Officer)というデータに特化した役員のもと、取り組み強化を図っています。そんな中、2023年、SMBCグループのIT戦略会社である日本総研に、新しくデータサイエンスのための専門部隊ができたわけです。日本総研のデータサイエンスグループは、設立当初より三井住友フィナンシャルグループのデータマネジメント部と一体運営を行っており、お互いのメンバーが同じフロアで緊密に連携しながら働いています。
――日本総研のデータサイエンスグループの概要を教えていただけますか?
廣瀬氏 : 日本総研はSMBCグループのIT戦略・開発を一手に担っています。これまでデータ分析を担う組織がなかったのですが、データ分析へのニーズの高まりを受けて、2023年の1月に専担組織としてデータサイエンスグループが立ち上がりました。2年目に突入した新しいグループであり、若手メンバーも多いため、育成に力を入れながら、グループの力を高めていこうとしています。育成については、データサイエンティスト協会発行のスキルチェックシートを活用し、各自のスキルレベルを客観的に測っています。スキルチェックシートではスキルレベルが「棟梁」「独り立ち」「見習い」とカテゴライズされていますが、「独り立ち」を目指すことをグループの目標にして、各メンバーの目標設定や、研修の育成計画に役立てています。スキルチェックシートを埋める上でも、E資格を学ぶと、効率的かつ体系的に機械学習やディープラーニングの知識を習得できるため、グループのメンバーは積極的にE資格の習得を目指しています。
――メンバーのE資格取得のために支援していることはありますか?
廣瀬氏 : E資格の研修(JDLA認定プログラム)受講の費用を会社が負担することで後押ししています。さらに、データサイエンスグループができたタイミングでデータサイエンティストというキャリアパスを新たに設けました。このキャリアパスを歩んでいく社員を後押ししていくために、会社推奨の資格にもE資格が追加されました。
髙橋氏 : SMBCグループとしての関わりについて補足しますと、もともとグループベースで、データサイエンティスト協会のスキルチェックシートを活用し、各社従業員のスキル保有状況の把握などに取り組んできた経緯があります。そういった蓄積をもとに、データサイエンスグループ用にチューニングして日本総研の人材育成に組み入れています。
――デジタル人材育成について、何か定量的な目標などはありますか?
廣瀬氏 : 先ほど述べた(データサイエンティストの)「独り立ち」レベルになることをKPIとしています。「独り立ち」になるための一つの効果的な資格として、E資格を位置づけています。昨年度はメンバーが15名で、そのうち5名が「独り立ち」になることをグループの目標にしていました。結果、5名が「独り立ち」となり目標達成しました。今年度はメンバーが増えて20名になりましたので、「独り立ち」8名を目標としています。8月のE資格試験で2名が合格するなど順調に進んでいます。当社にはもともと学習意欲が旺盛なメンバーが多いため、必要な資格取得はみんな積極的にやっていこうという熱意があります。また、グループとして、業務時間内の20%は自己研鑽に充てていいというルールにしており、E資格の受験勉強などデータサイエンス関連の勉強時間に充てたり、学会に参加したり、みんなそのルールをうまく活用しています。
SMBCグループが進める多様なデジタル人材育成
――日本総研の求めるデジタル人材像とはどんなものですか?
廣瀬氏 : 明確に固定的なペルソナを定めるのは難しいと思っています。一人ひとりが目指すデータサイエンティスト像を持って、それに向けて自分で磨きをかけていくというのがグループのやり方に合っているかなと考えています。
髙橋氏 : 今のお話は、日本総研のデータサイエンスグループの立ち位置に関わっています。日本総研のデータサイエンスグループは、SMBCグループの中でグループ各社のデータ利活用や分析の実務を強力に支援する専門部隊として設けたのですが、もともと三井住友銀行をはじめとするSMBCグループのグループ各社にもデータサイエンティスト部隊が別にいました。そこで、事業会社であるグループ各社のデータサイエンティスト部隊は、より自分たちのビジネスに近いところ、つまりビジネス力重視でやっていく組織とする一方、日本総研のデータサイエンスグループはどちらかというとシステム寄りでエンジニアリング力重視の組織と棲み分けています。システム寄りといっても、ベースとして金融のビジネス知識は必要で、その上で、それぞれの個性や興味を活かしながら広くグループ各社を支援していくというのが日本総研のデータサイエンスグループです。SMBCグループとして多様な人材で構成された、ポートフォリオを描いていくというのが理想形でしょうか。まだ道半ばではありますけど。
――多様な人材を活かしていくという方針はすごく分かります。ただ、その場合、成果を評価することが難しくないでしょうか?
廣瀬氏 :データサイエンスグループはどれだけSMBCグループのユーザニーズに貢献するかを求められる組織ですので、金銭的なKPIではなく、何件支援できたかという件数をKPIとして定めています。昨年度は本番実装案件15件完了を目標としました。今年度はそれを拡大して45件を目標にしていますが、順調に積み上がっている状況です。PoCで終わらせず、本番実装に拘って、成果として評価しているという形ですね。
髙橋氏 : 今大事なことは、データに特化した役員を置いたこともそうですが、この動きを面で広げ、グループ全体に根付かせることであると思っています。そうしたステージにおいては資格を取ることなど、スキルを高めるだけではなく、業務で結果を出していくことがより求められていきます。そんな中、E資格は実務的に役立つレベルであり、「取ったらいいよね」と評価もされる、ちょうどいいゾーンの資格ではないかと感じています。
廣瀬氏 : 私もマネジメントの立場ではありますが、グループメンバーが受験しているE資格を知るために受験して、取得しました。今世の中で流行っている機械学習やAIのアルゴリズムがどんな歴史で発展し、どんなブレイクスルーがあって今に至ったのかを体系的に学べました。今まで感じていたディープラーニングや機械学習に対する拒否反応がなくなり、グループメンバーとも同じ言葉で喋れるなと感じるようになりました。
「資格」と「業務」というサイクルを回せるような組織にしていく
――先ほどキャリアパスにデータサイエンストが入ったというお話を伺いましたが、貴社内でE資格取得者はどのように評価されているのでしょう?
廣瀬氏 :キャリアパスを歩んでいく中で、必須要件として取らなくてはいけない資格を社内でいくつか定めています。今年度からその中のひとつにE資格が入りました。研修(JDLA認定プログラム)受講費補助に加えて、合格した場合は報奨金が10万円出ます。前述したように、そもそも当社には学習意欲が旺盛なメンバーが多く、その一環で「E資格を取ろう」という風土ができたかなと思っています。むしろ取っていないと出遅れ感が出てしまいますね。
――E資格取得にとどまらず人材育成のために行っている独自の取り組みは何かありますか?
廣瀬氏 : 先ほどの20%ルールや報奨金のほかには、特別に会社としての後押しがいらないぐらい全員がE資格を取ろうとする意欲が土壌としてできたと思います。あとE資格に特化しているわけではないですが、当社内の「先端技術ラボ」と合同で勉強会を行って、先端的なユースケースを共有したりしています。
髙橋氏 : この分野に関心を持った人が勉強を始めますので、入り口のところに興味を持たせるための取り組みはSMBCグループとしても日本総研としてもやっています。例えばデータ分析の世界で有名な「Kaggle」を参考に、「D-1グランプリ」と称するグループベースでのデータ分析コンテスト を毎年開催しています。グループに所属するどの人でも参加できる形にして参加者同士で競ってもらい、上位の人を表彰しています。若手もいればシニア世代の方もいて、部長級の人が参加して表彰されることもあります。もちろんのこと、日本総研の方が表彰されたこともあります。ゲーム性があるので楽しく、ハマる人が一定数いるんですね。そういうところで関心を持っていただく。もちろんそこで使うのは本物のデータや本物のビジネスではないのですが、手を動かしながら、なんとなく“ビジネスっぽさ”を感じながらゲームとして楽しめます。このイベントを1年間心待ちにしている人もいるぐらいで、参加者は右肩上がりに増えています。
廣瀬氏 : 日本総研でも独自にコンテストを行っていて、これまでは初学者向けという位置づけで年1回開催し、そこで関心を持った方がSMBCグループの「D-1グランプリ」に参加するという流れが多かったのですが、スキルホルダーが増えてきて、初学者向けでは物足りないという声も出てきました。そこで今年から経験者向けのコンテストも立ち上げました。
今の若手にはすでにデジタル人材になるベースができている
――ここまでお話を伺ってきますと、日本総研には資格に挑戦しようという人が多い企業風土があると感じます。どうやってそのような企業風土が醸成されたのでしょうか? また、「それでも、なかなかこういう流れに乗ってきてくれない」というメンバーについては、どんな施策があるのでしょう?
髙橋氏 : SMBCグループ全体として、データ・AIの活用に向けた人材育成は極めて重要なテーマです。「なかなか流れに乗ってきてくれない」メンバーについての特効薬はないかなと感じていますが、私としては、社内の雰囲気、従業員の気持ちがどこを向いているかは常に気にしています。我々の取り組みが届いていない従業員もまだまだいるとは思いますが、キャズム理論といいますか、ある程度どこかの閾値を超えたらボンと上がっていくと思いますので、そこまで頑張るしかないという感覚です。そのうち、他の人がやっているのに自分が乗れなかったら恥ずかしいという感覚が湧いてくると思いますし、何より若手を見ていると、今の大学教育自体も変わっていて、デジタル技術に対する感覚が違うのですよ。ベースでそれを持っています、そんな人たちがマジョリティになるのは時間の問題でしょう。
――ありがとうございます。現在の課題や今後の抱負があったら教えていただけないでしょうか?
廣瀬氏 : せっかくE資格を取得したのだから、ディープラーニング技術を活かせる案件を増やしていきたいです。「資格」と「業務」というサイクルを回せる組織にするため、案件を作り出していきたいと思っています。
髙橋氏 : (ディープラーニングなどの技術を)どう使えるか、どういう風に使えば効果的なのかを見極め、ビジネスをデザインする企画側のリテラシーはまだまだ高めていかねばならないと思っています。やはりそこを高めるためにグループ全体としての人材育成には今後も力を入れていきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。