[4月28日(木)・29日(金・祝)開催] DCON2022公式レポート!
高専生が日頃培ったものづくりの技術とディープラーニングをかけあわせ、企業評価額を競うコンテスト「高専制度創設60周年記念 第3回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2022(以下、DCON2022)」の本選が4月28日(木)・29日(金・祝)の2日間に渡り開催された。
本稿ではDCON2022を振り返りつつ、注目したチームと、筆者が感じた本コンテスト、及びAI・ディープラーニングという技術の現在地について改めて俯瞰してみたい。
■Writer’s Profile
高島 圭介(たかしま けいすけ)
PR会社を経て、AI関連メディア「Ledge.ai」にてライター・編集として数々のAI活用事例を取材。その後、スタートアップのPRを経て、現在はフリーライターとして活動中。AI・DX・SaaS関連の事例取材が好き。
10億円超えが3チームも生まれたDCON2022
はじめに、DCONとは何かを改めて振り返っておこう。DCONとは、高専生がディープラーニングを活用したビジネスアイデアを考案し、ピッチを審査員であるVC(ベンチャーキャピタル)に対して行い、企業評価額、投資額の合計で競うコンテストだ。今年は第4回の開催となる。
評価の軸は技術性もさることながら、あくまで「事業として稼げる見込みがあるか」がポイントとなる。そのため、高専生たちは日頃触れている技術のみならず、ユーザーニーズをヒアリングし、ビジネスモデルを構築したうえでこのコンテストに臨んでいる
高専生たちがピッチを行い、終了後、審査員のVCがチームを企業と想定した場合の企業価値評価額(バリュエーション)と、投資額を決定。バリュエーションと投資額を合計してもっとも高いチームが優勝となる。
今年の予選には41チームから応募があり、今回の本選には8チームが残った。この記事の本筋ではないのでネタバレで恐縮だが、以下が今回の本選の結果となる。
筆者は第一回のDCONを取材しているが、以前と比べると遥かに規模が大きくなったと感じた。会場の大きさやスタッフの数もさることながら、有り体に言えば、より「ピッチコンテスト」っぽくなった。高専生のプレゼンや演出も洗練され、より社会に向けた発信を志向しているように感じた。
スケールが大きくなったのは投資額に関してもだ。今回のDCONでは、企業評価額が10億円超えのチームが3組も生まれている(第一回の優勝チームの評価額は4億円)。岸田総理が年頭記者会見で2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、「スタートアップ創出に強力に取り組む」と明言しているが、DCONにも、スタートアップ創出装置としての期待がかかっているのが見て取れた。
実行委員長の松尾 豊氏は閉会式でこうコメントしていた。
――松尾:「今回のDCONは、非常にレベルが高いものでした。DCONはファンが多く、NHKさんや日経新聞さんにもサポートいただき、今年から文部科学大臣賞、経済産業大臣賞を作ることができたのもすごく名誉なことです。今回は海外チームのエントリーもありました。日本の持続的経済成長において、一番のテーマ・課題は、スタートアップ企業の創出であり、なかでも高専生のポテンシャルを非常に感じています。ディープラーニングを活用してイノベーションを起こし、世の中に変化を起こしていってほしいと思います」
DCONで見たさまざまなディープラーニング活用
今回惜しくも優勝を逃したが、筆者の目線で興味深かったチームをいくつか紹介したい。
⼤島商船⾼等専⾨学校「New Smart Gathering(ニュースマートギャザリング)」
2位の大島商船は、キクラゲの自動収穫システムをディープラーニングとVR、ロボットアームを用いて開発した。企業評価額は10億円、投資額は3億円だ。
もともとキクラゲが好きだったと語るリーダーの田口創氏は、近くのキクラゲ生産者からの厳しい環境に直面する声を聞いていた。キクラゲ収穫の際には、ビニールハウス内の室温が34°C、湿度95%の非常に厳しい環境下で高齢の方が作業せざるを得ない環境だという。
そこで解決策として大島商船が提案したのが「New Smart Gathering」だ。栽培工場にロボットアームを設置し、VRによって遠隔でロボットアームを操作し、キクラゲを収穫する。キクラゲの菌床(キクラゲ栽培のための培地)をVR空間上で回転させてさまざまな視点で確認することもでき、さながら、家にいながら昼夜を問わずゲーム感覚で収穫ができてしまう。
何より斬新なのは、アナログなイメージのある一次産業の課題を、ディープラーニングのみならず最先端技術の組み合わせで解決しようとしたことだろう。キクラゲの生産者は労働環境が前述の通り過酷なほか、収穫の見極めには一定の経験値が必要なことや、それによる人手不足に悩んでいたという。こういった職人の経験と勘で行われてきた業務こそディープラーニングが力を発揮する部分ではあるが、ディープラーニングによる位置検出や成長度合いの判別といった分類問題に止まらず、VRとロボットアームを組み合わせて収穫作業まで代替してしまった。
今後はキクラゲだけでなく、より多くの農作物に対応していきたいそうだ。導入費用は500万弱とやや高額だが、補助金の組み合わせにより緩和されるという。
香川高等専門学校詫間キャンパス「こんどる?-混雑情報発信システム-」
7位の香川高専詫間キャンパスが開発したのは、ディープラーニングを活用した混雑情報発信システム「こんどる?」だ。カメラで駐車場を撮影し、クラウド上のAIで車の台数をカウント。アプリでリアルタイムに駐車場の混雑状況をチェックできる。
特筆すべきは、すでに香川県の自治体から依頼を受け、2021年6月より本稼働しているシステムだということだ。500万円/年での契約をすでに受注しているという。
しかし、香川高専はこれでは満足しなかった。スーパーや飲食店、観光地などの設置場所を拡大すべく検討していたところ、より大きな社会問題に気がついたという。それが、日本の物流の大動脈を支えるトラックの駐車場が足りないという問題だ。トラックが休憩できる場所は主にパーキングエリア(PA)かコンビニだが、PAは80%、コンビニは50%の確率で混雑で駐車できない。その結果、トラックの路上駐車が問題になっているという。
「こんどる?」を全国のPAとコンビニに設置することで、トラックドライバーはアプリ上で空いている駐車場に向かえば休むことができ、路上駐車問題の解決や、コンビニの空き駐車枠の有効活用につながる。
しかし、全国のPA、コンビニへのカメラの設置を無料で引き受けるという想定だったため、初期投資が大きすぎて回収が難しい可能性があるのが懸念だ。この点はVCにも実際に突っ込まれており、それもあって順位が伸び悩んでしまったのだろうと思う。
筆者が注目したのは、技術を横展開する際の着眼点である。リーダーの山田斉氏が「こんどる?」をトラックの駐車場不足問題に転用できると気がついたきっかけは、とあるYouTubeチャンネルからだという。
同じ状況にいたとして、普段なんとなくYouTubeを流し見している筆者では、こうしたアイデアは思いつくはずもない。単純なことだが、常日頃から自分のビジネスについて考えに考え、きっかけを逃さなかった結果として今回のアイデアに繋がっているのだろうな、と感じた。何より、YouTubeから着想を得るというのがとても「今っぽい」。
スタートアップ創出装置としてのDCONの存在意義
コンテスト終了後に個別にチームに取材する機会があった。「期間中に一番大変だったこと」は何かと聞くと、高専生が口々に答えたのが「ユーザーヒアリングが大変だった」ということである。
たとえば、ディープラーニングを活用した駐車場管理システムを開発した沼津高専は、「当初ニーズを把握するために大量の商業施設に質問を送付した」(沼津高専メンバー)が、すべて断られてしまったという。結果、自分たちで商業施設に実地視察に行く必要があり苦労したと語っていた。
また、ゴミ拾いロボットにサイネージを付けマネタイズしようとした沖縄高専は、現場へのヒアリングが大変だったという。当初は海をきれいにしたいという思いからゴミ拾いロボットを検討。ニーズ把握のために首里城や、把握しているビーチすべて、公園を管理する役所に足を運びヒアリングを実施したという。その過程で、施設側にそもそも清掃費にかける予算がなく、ロボット単体だと売れないとわかり、サイネージを搭載することで広告費でマネタイズするアイデアに行き着いた。
これらからわかるのは、技術のみではユーザーニーズにフィットさせることは難しく、上記のような泥臭いユーザーヒアリングという過程は避けて通れないということだ。上記チーム以外にも、多くがその点に苦労したと語っていたし、何よりVCからの質疑応答でも重視されていたのが見て取れた。
どれだけ技術が画期的だろうと、ユーザーニーズがなければプロダクトは売れない。優勝した一関高専の「D-Walk(認知症予防デバイス)」も、技術的には他チームとの一定の被りはあったものの、ビジネスモデルが練り上げられていたからこそ、優勝を掴んだ。DCONは技術の良さは当たり前、そのうえでどのハードウェアと組み合わせ、どうビジネスを創るかのコンテストなのだと改めて痛感した。
また今回、一次産業に新たな風を吹かせるアイデアも目立った。上で取り上げた大島商船の農業へのアプローチ以外にも、漁業・林業といった業界にアプローチした高専もあった。一次産業では少子高齢化による深刻な後継者不足が問題になっており、IT技術を活用した効率化・人手不足に耐えうるような省人化が急務だ。ディープラーニングをうまく活用できれば、現在ベテランが暗黙知で行っている作業を自動化でき、ひいては産業の存続につながる。まさにディープラーニングが力を発揮する領域であり、日本社会として課題解決が求められている領域でもある。
一次産業以外にも、各校の作品は個々の高専が位置する地域性が表れており非常に興味深かった。技術を通した地域貢献を是とする高専だからこそ、地域が持つ課題を技術で解決するべく多様なアイデアが生まれるし、だからこそスタートアップが生まれる土壌もあるのだと感じた。産業界全体にDXという波が広がる昨今、鍵となるのはやはりスタートアップが起こすイノベーションだ。その創出装置として、DCONは大きな意味を持つ。
コロナ禍を経て、オフラインで開催された今回のDCON。表彰までの時間、バックヤードでは企業賞を選定している最中の企業の方々が楽しそうに議論を交わしており、オフラインイベントの良さも改めて感じたイベントとなった。来年も楽しみだ。