AIで人間の能力の拡張を

「ディープラーニング×ビジネス」活用事例紹介 #2

ギリア株式会社(以下「ギリア」)はディープラーニングをはじめとしたAIを活用したソリューションを、お客様の複雑な課題に合わせて提供している。ただAIエンジンを提供するだけでなく、課題の設定から導入、その後の運用サポートまでワンストップで提供するのが特徴だ。

AI導入によって大きな成果を上げた事例や、AI活用の勘所などについて、同社の増田哲朗 取締役COOに聞いた。

ギリア株式会社(JDLA正会員社)

事業内容:人工知能及び応用技術に係るコンピュータソフトウェア、システム等の企画・開発・コンサルティング・保守等
本社所在地:東京都台東区
設立:2017年6月30日
https://ghelia.com/

ミッションは「ヒトとAIの共生環境の実現」

―ギリアの事業内容と、創業の経緯を教えてください。

 前身の会社である株式会社UEI(以下「UEI」)と、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下「ソニーCSL」)が2013年頃からAIについての様々な研究を共同で行っていました。その流れから、2017年にUEIとソニーCSL、ベンチャーキャピタルのWiL, LLCの3社が出資する形で当社が創業しました。

 ミッションとして「ヒトとAIの共生環境の実現」を掲げ、社会や暮らしの様々な場面においてあらゆる人が自在に使いこなせるAIを目指しています。課題解決や効率化といったことだけでなく、AIによって人間の能力を拡張し、AI技術による喜び・発見・感動体験を提供したい、と考えて取り組んでいます。

 AIに関する高い専門性を持っていることは強みではあるのですが、我々はAI技術そのものを売っている訳ではありません。AIを暮らしや社会で活用しやすい形にしてご提供することが我々の特徴です。そのために必要な、課題の設定や事前のアセスメント、導入支援、運用支援などをワンストップでご提供しています。

 実際の案件では、課題を抱えられている現場に伺い、しっかりとヒアリングすることを特に大事にしています。その際に、「AI以外の手法の方が課題解決に有効だ」と判断すれば、そういったご提案をさせていただくこともあります。

 データについても非常にこだわっています。お客様によっては、過去に蓄積したデータだけではAIを効果的に活用できない場合もございます。そのような場合は、品質の高いデータを作るところからお手伝いします。

―ギリアのソリューションは主にどのような分野で使われているのでしょうか。

 我々のお客様は社会インフラに関わる事業をされていらっしゃる方が多いですね。長期間に渡りパートナー関係を築かせていただいているお客様も多いです。社会インフラの場合、例えば、ゼネコンであれば現場の安全が、小売店舗で監視カメラを使うような場合であればプライバシーが、それぞれ重要になります。それらのサービスを提供する上で必要になる倫理観は、大切にしていますね。

―しっかりとヒアリングしてお客様の課題に合ったAIを、というお話でしたが、パッケージは提供されていらっしゃらないのでしょうか。

 はい、我々の事業の特徴になりますが、お客様に合わせてオートクチュールのような形でAIとシステムをご提供しています。勿論、案件を重ねたことにより技術アセットは溜まっていきますので、「前の案件で成功したあのやり方が、今回も使えそうだ」といった場面は多くあります。そういった場合には、過去の案件で用いた手法やプログラムを活用することもあります。

学力診断を従来の10分の1の時間で実現

―AIやディープラーニングを活用した事例を教えてください。

 家庭教師派遣事業を展開されている株式会社トライグループ様の事例があります。2019年から2つのシステムでAIをご活用いただいておりまして、その1つが「学力診断システム」です。

 新規入会の際などに生徒の学力を診断する場合、従来は幅広い出題範囲に対応したテストを1教科当たり2~3時間かけて実施されていました。これは生徒にも非常に負荷がかかりますし、教師も採点に時間がかかります。学習の進捗を測るために学習診断を実施しようにも、生徒と教師の双方の負荷が大きく、頻度を増やせないことも課題でした。

 「学力診断システム」では、タブレットのアプリを使い、2~4択の問題に答えることで学習診断を行います。診断にかかる時間は従来の10分の1程度で、採点の必要もありません。診断結果は、単元ごとに星0~3個で表現し、苦手分野や復習が必要な個所が一目で判ります。我々の提供するAI技術は、問題の選択や、生徒の苦手な範囲についてのアドバイス、関連する映像授業の紹介、といったことに利用されています。

出典:家庭教師のトライ/トライ式AI学習診断
https://www.trygroup.co.jp/campaign/ai/

 もう1つが「入試問題的中AI」です。約200校の過去問題を分析し、それに類似する問題を、データベースに取り込んだ参考書から選んで出題します。予備校の先生であれば、経験に基づいて同様のことをされていらっしゃいますが、「入試問題的中AI」では、そういった業務を科学的に行えるようにしました。

出典:家庭教師のトライ/入試問題的中AI
https://www.trygroup.co.jp/campaign/university-ai/

―2つのシステムによってどういった成果が出ていらっしゃいますか。

 採点業務などにかける時間が減ったことで、教師が生徒個々人の教育によりフォーカスできるようになったと伺っています。先ほど我々のミッションとして「AIによる人間の能力を拡張」を挙げましたが、この事例ではそれが実現できたと考えています。

―これまでは教育現場ではAIは使われてこなかったのでしょうか。

 いいえ、数学などの教科では、分からなくなった範囲まで一度さかのぼって勉強をし直す「さかのぼり学習」においてAIが活用されていましたし、一定の成果を上げていました。ですが、さかのぼりが必要な量が多い生徒にはかえって学習意欲を低下させてしまったり、社会などの文系科目には適用が難しかったりという課題がありました。「学力診断システム」はそういった課題も解決できることが特徴です。

 このほか教育現場におけるAIの活用として、資格試験向けなど他業界への展開を考えています。

―この2つのシステムを作ることはどうやって決まったのでしょうか。

 トライグループ様は我々の株主様でもありまして、そういった関係からギリア設立時に「AIを使って何らか業務の課題を解決できないか」とご相談いただいたことがきっかけです。ディスカッションの中で、トライグループ様が課題に感じられている様々なことをお伺いし、その中でAIを使うことで成果が見込めそうなものとして先の2つに取り組むことになりました。

―一般的なシステム構築の場合は、ユーザー側が要件を作ってそれに沿ったシステムの構築をベンダーに依頼する、という形が多いですが、AI関連のシステムはそれとは流れが異なるのでしょうか。

 はい、業務課題を明確にしていただくことは一般のシステム構築と同様に必要ですが、その課題解決にAIを適用して効果を出せるかどうかは、ある程度AIの専門的な知識がないと判断が難しいと思います。実際のところ、AIを適用する業務課題の設定に悩まれているお客様が非常に多いという印象を持っています。我々にお声がけいただく場合にも、悩まれていることについてお気軽にご相談いただけたらと思います。

属人的なノウハウの塊だった工事計画を自動で作成

 もう1つご紹介したいのが、強化学習を使った工事計画の自動作成の事例です。既に一部の現場でご利用いただいておりますが、今年正式にリリースする予定です。

―強化学習とはどういった手法なのでしょうか。

 シミュレーターの中をAIが自動で動きまわって、AI自身が試行錯誤しながらその中で最適な結果を獲得していく手法ですね。強化学習は、ゲーム内のバグを見つける「デバック」と言われる作業を自動化する際によく用いられています。ゲームの場合はシミュレーターに当たるのがゲームそのもので、AIがキャラクターを操作して様々なバグを発見する、という形になります。従来はこのデバッグ作業を人間が実際に操作して行っていたのですが、非常に時間がかかり負荷も高いため、近年はAIが利用されるようになってきています。

 我々は以前から強化学習にも強みを持っていたのですが、ゲーム以外のビジネスにも適用できないかと考え、これまでいろいろな分野で可能性を探ってきました。その中で大きな成果が出たのが工事計画の自動作成でした。

 従来の工事計画の作成は属人的なノウハウの塊でした。造成工事を例に挙げると、どこからどこに土を運ぶか、どのように道路を作って出口をどこに設けるか、といったことでコストやかかる時間が大きく変わります。工事が始まった後にも、作業員をどう割り当てるか、作業員が体調不良で休んだ時にはどう対応するか、といった様々な検討事項があります。

 こうした多くの考慮すべき事項をシミュレーターに取り入れ、強化学習の対象にすることで、工事計画の自動化を実現しました。どういった成果が上がっているかは、近いうちに発表予定のプレスリリースでお知らせできたらと思います。

―強化学習は他のビジネスにも応用できそうですか。

 製造業では活用できる場面が多いのではないかと考えています。例えば大規模プラントです。プラントAとBで別々の材料を作り、それぞれを倉庫に置き、必要なタイミングでプラントCで活用する、といった流れがあるとします。それぞれのプラントをフル回転させることができればベストなのですが、実際には需要と供給のバランスで生産量が決まりますし、プラントで作った材料をどの倉庫に保管するか、といったことでもコストや生産効率が大きく変わります。こういった様々な要素を考慮してベストな生産計画を作成する場合に、強化学習はとても有効だと考えています。

AIは、使う人が「楽しい」と感じる分野に使うべき

―AIやディープラーニングを上手く活用するためのポイントは何でしょうか。

 これまでの感触としては、利用した人がとても楽しいと感じられるような分野にAIを利用するのが、効果が出ると感じています。世の中にない全く新しいサービスを作ることや、人の能力を拡張できるような分野であれば、AIが力を発揮します。

 例えば我々がJRAシステムサービス株式会社様と開発した「競走馬の姿勢推定」が該当します。パドック映像から競走馬の姿勢をAIが解析し、そのデータをご提供することで、新しい軸で予想する楽しみが拡がりました。

一方で、少し意外に思われるかもしれませんが、省力化や人手を減らすといった目的で効果を出すことが実は難しいと感じることもありました。省力化ができたとして、実際に企業が雇用を調整したり、手が空いた人を異動させたりすることが簡単にできる訳ではない、という問題がまずありますし、AIを導入するよりも人手の方がコストがかからない、といったケースも多くあるからです。

 また、失敗すると大きな損失が出るようなクリティカルな業務にAIを使うのも難しいと感じます。勿論使うことはできるのですが、失敗がないようにAIを作り込むと、これも非常にコストがかってしまいます。

 利用した人が楽しいと感じるかどうかは、AIを上手く活用するための一つの指標になると思っていますし、課題解決の際にもこの視点を持つようにしています。

―これまでにない新しいサービスを作る上で、採用や人材育成は重要だと思います。どのように考えていらっしゃいますか。

 採用は積極的に行っています。これまでAIやディープラーニングへの高い専門性を持つ人材を多く採用してきました。今後特に重要になるのが、AIを社会実装する際のマネジメントができる人材だと考えています。AIの専門家をまとめて、その力を様々な業種でのシステム構築に生かすことができるような人材を求めています。

 各業種に関する知識が必要な場面も増えていますので、Web業界やシステムインテグレータなどに在籍されていて「今は知識がないけれどもAIの世界に飛び込みたい」という方も、積極的に採用していきたいと考えています。

メッセージ

AIによって既存のビジネスを根底から変革することに情熱を持てる仲間を待っています!
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