AI For Everyone受講の必須化、G検定・ITパスポート取得者への資格手当付与など、DX・AI人材育成を加速するGMOメディアの取り組みとは?

今回お話を伺ったのは、GMOインターネットグループのメディア事業を担うGMOメディア株式会社。2023年9月、同社は人的資本経営の強化と全職種のパートナー(従業員)のAIリテラシー向上のため、JDLAが提供するビジネスパーソン向けAI/ディープラーニング講座「AI For Everyone(すべての人のためのAIリテラシー講座)」の受講を必須化し、その3か月後に全正社員パートナー(136名)の受講を完了しました。

さらに同社は「G検定(ジェネラリスト検定)」(主催:JDLA)と「ITパスポート試験」(主催:独立行政法人情報処理推進機構)の受験を強く奨励しています。新たにスタートした「リスキリング支援制度」の後押しもあり、現時点(2024年4月末時点)での取得率は、「G検定」が約40%、「ITパスポート試験」が約50%に達しているとのことです。同社では「リスキリング支援制度」開始から1年となる2024年10月までに、「G検定」取得率50%、「ITパスポート試験」取得率100%を目指すとしています。

同社のDX・AI人材育成方針の大きな特徴は、すべてのパートナーを対象としていることです。この取り組みで、エンジニア職種ではないメンバーからも、続々G検定合格者が生まれているとのこと。今回、同社のDX・AI人材育成の取り組みについて、人材育成を推進しているコーポレート部 部長の柑本(こうじもと) 繁典氏にその背景や施策の効果などを、またG検定資格取得者の烏丸 愛美氏、倉田 仁美氏にどのような準備をし、ご自身にどのような変化が起きたのかを伺いました。

Profile

人材育成担当 コーポレート部 部長
柑本 繁典氏

サービスデザイン部 チーフデザイナー
烏丸 愛美氏 (G検定2023#4合格)

事業開発本部 コエテコカレッジグループ
倉田 仁美氏 (G検定2023#5合格)

AIはインターネット以上の変化を社会にもたらすと確信、『変化への対応力』こそGMOメディアの強み

まずGMOメディアがDX・AI人材の育成に注力するようになった背景ですが、柑本氏によると、今回AI For Everyone受講の必須化を発表する3年前からAIのもたらす社会の変化に着目、会社負担でのその受講を推奨してきたと話します。3年前というと、ChatGPTが話題にもなっていない時期です。

「弊社の代表取締役社長 森 輝幸は、“これからAIの時代がやってくる”という強い危機感と期待の両方を早い時期から感じていたのです」(柑本氏)

当時の森代表は、“四半世紀前にインターネットを取り入れて、活用できなかった会社はどんどん衰退をしていったのと同じように、それ以上のスピードでAI の大きな波が来るのは確実で、それに乗れない、使いこなせない会社はどんどん衰退していく”と熱を込めて話し、AI For Everyoneの研修をぜひ受講するようにとパートナー全員にメッセージしていたとのことです。それはGMOメディアの創業と成長の経験が影響しているようです。

「当社の創業は2000年ですが、当時まだインターネットは世の中のスタンダードになっているとは言えない状況でした。しかしこの四半世紀で、インターネットは世の中になくてはならないものになりました。その流れの速さやスピード、 世の中への浸透度を経験し、今後、AIがインターネット以上の大きな波で来ると経営者として感じて、いち早くそれを取り入れていきたいという思いが強くあったのではないでしょうか」(柑本氏)

トップからのメッセージもあり、同社ではパートナーにAI For Everyoneの受講を推奨しましたが、必須化前では、受講完了者は30%ぐらいにとどまっていたとのことです。しかしChatGPTの登場など、AI界隈の動きが加速したことを受け、パートナーが職種を問わずAIの基本的な知識、リテラシーを身に着けそれを利活用できる人財になることが必要であると考え、、2023年9月にAI For Everyoneの受講を推奨ではなく必須化しました。12月末までに100%完了を目標とし、無事達成したというスピード感です。

2023年9月にAI For Everyoneの受講を必須化し、3カ月で100%完了と話す柑本氏

また、それだけは不十分と考えた同社は、ITパスポートとG検定の取得も全社として推奨していこうと検討を進めました。すでに会社が認める一定の資格を取得したらスポットで報奨金を支給するという認定資格取得支援制度が存在していましたが、人的資本経営の重要な柱として「デジタル人材、AI人材育成」を掲げている同社は、世の中のめまぐるしい変化に対応していくためにはパートナーのリスキリングが必要不可欠と考え、その本気度を示すためITパスポート取得者には毎月5000円、G検定の取得者には毎月10000円を資格手当的な位置づけで給与に上乗せする「リスキリング支援制度」を開始しました。

その後押しもあり、「4月末時点ではITパスポートが50%で、G検定が40%ぐらいまで増えています」と柑本氏は語りました。

「会社が持続的に成長していくためには、時代に即した技術を研究してサービスに取り入れ、付加価値を付けていく必要があります。そしてインターネットの業界はこのスピードがものすごく速い。今多くの方に利用されているサービスでも数年後新しい別のサービスが利用されていることもよくありますそれが今後AIの進化によって、さらに加速度的に速くなっていくと考え、当社はリスキリングを重視して取り組んでいるのです」(柑本氏)

そのようなGMOメディアが考えるDX・AI人材の育成方針は、エンジニアなどの業務に携わるパートナーだけではなく、「全社員が身につける知識・リテラシー」として基本的な知識取得を必須化するところに現れているようです。

しかし、必須化のような取り組みには社内からネガティブな意見は出なかったのでしょうかと伺うと、柑本氏はとくにありませんでしたと答えます。その理由としては、まずトップからの熱意あるメッセージが繰り返し全パートナーに届いていること。また、そういうメッセージが伝わりやすい“風通しのいい組織”であること。また、幹部メンバーが率先して受験に取り組んだことなどではないかと続けます。

風通しが良い組織と語る3名

前述のようにGMOメディアは創業当時からインターネットという大きな社会変化に対応して成長してきました。会社組織として「変化」に関する鋭敏な感覚と、それに対応しようというDNAがあるため、今回のAIに対するパートナー(従業員)の姿勢も、自然と前向きになるのでしょうか。

「それはあると思います。当社の強みは何かと聞かれると、『変化に対応する力』だとお答えしています。最近ではアジリティと言っていますが、そこに共感してくれているパートナーも多いのかなと思います」(柑本氏)

今回の取り組みによって、組織に起きた変化について柑本氏は次のように語ります。

「AIについて学ぶ必要性は感じているものの、なかなか取り組めない人たちが、今回の支援制度の導入によって、じゃあやってみようという一歩が踏み出せたのかなとは感じています。新しいことを学んでいくこと自体がとてもポジティブな行為ですし、それによって自己肯定感が高まっていき、そのメンバーが増えれば組織の力も強くなっていくのではないでしょうか。資格の取得はきっかけにすぎないと思っています」(柑本氏)

抽象的にリスキリングの必要性を問い続けるより、目の前に具体的な目標を設定し、それにチャレンジしていくことが、DX・AI人材育成を推進していくうえで大切なポイントではないかと柑本氏は続けました。

エンジニアではない職種のパートナー(従業員)が率先してG検定取得

――ここから個人の体験にフォーカスするため、実際にG検定を取得したサービスデザイン部 チーフデザイナー烏丸 愛美氏、事業開発本部 コエテコカレッジグループ倉田 仁美氏にお話を伺います。まずは現在のお仕事を教えていただけますか?

烏丸氏 : 私はサービスデザイン部という部署に所属し、現在はチーフデザイナーをしております。ふだんは「コエテコ byGMO」という教育、学習関連のウェブサービスを担当していまして、その中のディレクションからUIデザイン、クリエイティブとコーディングまで幅広くやっています。また、チーフデザイナーとして、デザイナーにとってサービス成長のために必要になる技術の推進をしたり、メンバー向けの研修を実施したりしています。

――そもそもエンジニアではなかったわけですね?

烏丸氏 : はい、デザイナーとして入社しました。

――倉田さんの方は?

倉田氏 : 私は全く別の業界から中途採用で入社しました。「コエテコ byGMO」の姉妹サービスの、誰でも簡単にオンライン講座を作成・販売できるサービス「コエテコカレッジ byGMO」を担当していまして、実際に使っている方からの要望に対応したり、その受講者様からの問い合わせ対応などを行ったりしています。もちろんエンジニアではありません。

柑本氏 : 私の方で補足しますと、「コエテコ byGMO」自体が、デジタル人材不足という社会課題解決の一端を担うため、一般のユーザーに向けて立ち上げたサービスと言えるのです。

――お二人がG検定に挑戦しようと思われた理由を教えてください。

烏丸氏 : AIについて、世の中が大きく動いているのは実感していましたし、それにかける会社の熱量も社長の発信などから感じてはいましたが、それに乗っかれていないような気持ちといいますか、正直あまり興味を持てていなかったことに焦りを感じていました。そのタイミングでリスキリング支援制度の話を知って、手当がもらえるならやってみようかな、という気持ちになったのが正直なところです。あとは、先ほど言いましたように、非エンジニアなので、周りより早めに習得できたらかっこいいかなって(笑)。

倉田氏 : 受けようと思ったのは、手当のことが発表されてからですが、私の上司がG検定を取得していまして、チームの中で何度か話題になりました。そこで、これからAIがどんどん盛り上がっていく中、取っておいた方がいい資格だろうという話も出ていました。そんなこともあり、“これから知っておかないとまずい知識になるだろうな”と感じていたところ、手当に後押しされ受験しました(笑)。

「リスキリング支援制度」が後押しになったと話す烏丸氏

――G検定を受験すると決めてどのように勉強されましたか?

烏丸氏 : JDLAのG検定公式テキストを読むところから始めました。最初は大変でした。初めて聞く用語ばかりだったので、頭に入っているのかもわからなくてかなり不安でした。同じ回に一緒に受けるメンバー同士で励まし合ったり、“どんな感じで勉強している?”みたいな会話をしたりしていましたね。

倉田氏 : 私も同じようにテキストを購入して読み進めつつ、合わせて動画講座で勉強したり、模擬試験を受けてみたりしていました。

――G検定のために学んだことが業務に役立ったとか感じたことはありますか?

倉田氏 : 私が担当しているお客様向けのサービスでもAIの機能を追加することがあるのですが、 実際にサービスを使うお客様とやり取りするのはエンジニアではなくて私です。私自身もその機能がどういうものか、どういう仕組みなのかをある程度理解していないと説明ができません。学んだおかげで説明する時の不安が少し払拭されたなという風に感じています。

烏丸氏 :毎日のようにAIの技術やツールに関するニュースが飛び込んできますが、今までそういう記事を読むのもハードルが高かったのが、受験後は学んだ馴染みのある用語が並んでいて、インプットするハードルが下がった感じはありますね。 あとは、実際に業務でエンジニアと会話するのですが、今までは自分とは関係ないことだって思っていたことに、耳を傾けられるようにもなりました。

――G検定を受験して、自分の中で何か「変わった」と思うようなことはありますか? また、今後「こうしていきたい」と思うことがありましたらお聞かせください。

烏丸氏 : 先ほどの話と重複しますが、 インプットのハードルが下がり、社内でもAI推進に関心が高まってきたことにより、デザイナーとしても、“このままだとAIの時代に置いてかれちゃうよね”という危機感をより感じるようになりました。そこで、今後、使えることが必須になるであろう技術やツールを調査する取り組みをしたり、勉強会を開いたりという取り組みを行うようになりました。また、AIの知識はインプットし続けていますが、それを最大限に活用していくところまでにはまだ至っていないと感じていますので、引き続き勉強していきたいという思いと、「業務などの効率化」をさらに実現していきたいという気持ちがあります。

倉田氏 : 入社時点ではITに関する知識が全くなくて、不安が大きかったのですが、こうしてIT業界に入って 働いてみると、ますますエンジニアとの知識の壁を感じました。例えばお客様から何か要望をいただいて、それが実現可能かどうか、その場で当たりをつけることも私自身ではできませんでした。その差を少しでも埋めたくて、まずITパスポートを取ったのですが、今回G検定も受ける機会ができました。学びを経て、社内のエンジニアとの共通の言語を増やすことはすごく重要だなと感じています。自分が遅れているという感覚をなくす上でも、すごく自信に繫がったと思っています。これからのことで言うと、勉強していく中でAIを使ったツールを知る機会も増えたので、 業務の効率化はもちろん、今私が担当するサービスをお使いの方が、販売や集客を行いやすくするようなサポートや機能の追加などに役立てられたらいいなと考えています。

中途入社時はIT知識がなかったと振り返る倉田氏

――最後に、みなさんと同じような立場で、G検定に興味を持った方へのアドバイスやメッセージをいただけますか?

烏丸氏 : G検定を受けることで、技術の変遷や、歴史、概念的なものを広く知れました。受験前の私みたいに“AIってよくわからない”くらいの気持ちの方こそ、最初にこれらの基礎知識をつけて、今後の学習のハードルを下げるという目的で受験してみたらいいかなと思っています。

倉田氏 : 私は多分会社のこの取り組みがなかったら、 受けようと思わなかったでしょうし、自分には絶対無理だと決めつけていたと思います。あまり構えすぎず、合格することよりは、新しいことを勉強するというチャレンジのつもりで、取り組むといいかなと感じます。勉強してみると、今までの自分では想像できなかった仕組みでAIやシステムなどが動いていることが分かり、世の中への興味が広がる分野だと思うので、 全く関係ないと思っている方や、自信がない方でも、受験してみるといいと思います。

資格取得はひとつのきっかけ、そこから進んでいける人が増えると組織は強くなる

――会社としてはG検定合格者に対して、どのような期待を寄せてらっしゃいますか?

柑本氏 : お二人の話の中にもあったのですが、資格取得はひとつのきっかけであり、最初の第一歩だと思っています。人って、最初の一歩を踏み出すまでに時間がかかったりするじゃないですか(笑)。踏み出してしまえば、二歩目、三歩目は一歩目よりも早く進めるでしょう。その最初の一歩を踏み出してもらうきっかけになるのがG検定であって、一歩目を踏み出した方たちには、二歩目、三歩目どんどんAIの利活用を進めていっていただきたいです。その数が増えていくほど、会社としての競争力や組織力の向上にもつながっていくと思うので、そういったところを期待しています。

――その一歩を踏み出した社員を信じて、どんどん自分たちで歩んでいただきたいという感じでしょうか?

柑本氏 : そうですね。AIを積極的に活用して、具体的な業務の効率化や、サービスの付加価値を高めていき、ユーザーの皆様の笑顔を増やしていくとか、そういったところにつながるといいかなと思っています。

インタビューを終えて懇談するお三方

ディープラーニングの理論の理解と
開発実装能力を認定する資格試験

生成AIに特化した知識や​
活用リテラシーの確認の為のミニテスト​

全てのビジネスパーソンに向けた、
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