ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指す「日本ディープラーニング協会」(理事長:松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科 教授、以下JDLA)は、2023年の年頭にあたり謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
皆様、あけましておめでとうございます。
昨年は、ディープラーニングのインパクトが改めて大きく認識された年でした。大きくは、画像生成AIと、ChatGPTに代表される大規模言語モデルの2つが大きく注目を集めました。皆様はどのようにこうした技術をご覧になられていたでしょうか。
画像生成AIは、OpenAIのDALL·E 2、少人数の研究所で運営するMidjourney、ロンドンのスタートアップの提供するStable Diffusionなどが次々とリリースされました。Diffusion Model(拡散モデル)という技術で、画像の修正を段階的に行うことで、ユーザが入力する語句(prompt)にあわせた画像を生成することができます。ユーザがpromptを工夫するprompt engineeringが競って行われ、AIで画像を生成するということが一気に市民権を得ました。
もうひとつ、11月末にリリースされたChatGPTも、オープンからわずか1週間で100万ユーザを超えるなど、大きな話題を呼びました。さまざまな対話を行うことができ、その回答の精度の高さ、創造性の高さに人々は驚きました。コードの修正やディベート、英語の添削ができるなど、用途が次々に発見され、産業上の大きな可能性を感じさせます。もともとは、2020年にリリースされたGPT-3(それにデータを加える等の工夫をしたGPT-3.5)がベースとなっており、それに強化学習、報酬関数の学習などを行うことで、GPT-3の能力を十分に引き出し、人間が適切と感じる会話をうまく生成できるように工夫がされています。2017年から始まったトランスフォーマと自己教師あり学習をベースにした大規模言語モデルは、少なくとも現在の技術水準においても、大きな産業上の可能性があります。今後、さらに巨大なGPT-4がリリースされるとも言われており、さらなる技術やスケールの進展とともに、どのように産業に波及していくのか、国際的な競争のなかで日本はどういった技術開発や事業展開をしていけばいいのかは重要な論点だと思います。
そういった意味で、昨年は、ディープラーニングの近年の成果が、多くの人の目に見える形で展開され、その重要性が改めて理解された年だったと言えるでしょう。しかし、ディープラーニングの技術的な発展は、こうした範囲に留まりません。少なくとも何点かの本質的な技術課題がまだ未解決のままであり、それらが解決されてくることで、さらなる飛躍がこの先に訪れると思います。したがって、ディープラーニングの技術の進展にしっかりついていくこと、それを活用できる状況にしていくことは、日本全体にとって大変重要なことであると考えます。日本ディープラーニング協会は、こうした革新的な技術の中心にある団体として、引き続き日本の産業競争力向上のために、情報の収集や発信、人材の育成、産業の強化に務めていきたいと思っています。
日本国内の話に戻しますと、日本全体でDXの必要性が叫ばれてしばらくたちます。政府もDX、リスキリング、スタートアップ等の重要性を発信し、それにともなった政策が展開されようとしています。DXをいかに適切に進めていくのか、それを実現できる人材をいかに育成していくのかは国全体で重要な課題であり、省庁や他の団体とも連携しながら、日本ディープラーニング協会の果たす役割を全うすべくしっかりと推進していきたいと考えています。
日本ディープラーニング協会は、昨年も各事業を成長させることができました。正会員は34社、有識者会員18名、賛助会員40社、行政会員は22団体となりました。G検定の合格者は57,991名となり、E資格の合格者は5,482名となりました。いずれも順調に増加しており、資格試験としての認知度や価値も向上しています。高専生を支援する高専DCONでは、企業価値10億円の事業アイディアが3チームから生まれ、DCON発スタートアップも現在4社生まれています。今後、さらに人材育成や産業競争力の強化につなげるべく、個人が何を学べばよいかを整理して発信すること、また、企業や自治体のなかでディープラーニング等の技術をどのように活用していけばいいかを提示し支援していくことに力をいれていきたいと思っています。引き続き、協会へのご支援とご指導を賜れますよう、よろしくお願い申し上げます。
今年一年が、皆様にとって良いものとなりますよう、また、ディープラーニングの技術が日本全体・社会全体に新しい希望をもたらすことを願って、新年のご挨拶とさせていただきます。
一般社団法人 日本ディープラーニング協会 理事長
松尾 豊