2022年 年頭所感 日本ディープラーニング協会理事長 松尾豊より

ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指す「日本ディープラーニング協会」(理事長:松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科 教授、以下JDLA)は、2022年の年頭にあたり謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

皆様、あけましておめでとうございます。

昨年は、コロナ禍のなか1年が始まり、行動を制限される状態がいつ終わるとも知れず続き、ようやく年末になって明るい兆しが見えてきたという年でした。皆様の生活やご健康はいかがだったでしょうか。

ディープラーニングの技術的な進展としては、昨年は、タンパク質の構造予測をするAlphaFold2がOpenAIからオープンソースとして公開され、医療やバイオインフォマティクス等の科学技術の分野に大きな反響をもたらしました。また、GPT-3のような巨大な言語モデルは、”foundation model”として、その有用性やリスクが議論されながら、その底知れない力にますます多くの注目が集まりました。トランスフォーマ等の機構というよりも、規模の大きさこそが重要ということがますます明確になった一年でした。こうしたディープラーニングに関する技術的な進展は、少なくとも国際的な学術コミュニティを見ている限りではとどまる気配がなく、また知能の仕組みにおける未解決のさまざまな課題を考えても、その発展は今後も長期間継続していくことと思われます。

一方で、昨年は、年頭所感でも述べさせていただいたように、ディープラーニングがDXという文脈のなかで新たに捉え直される一年でもありました。日本ディープラーニング協会では、昨年4月から「DL for DX」をテーマに、さまざまな発信を行いました。経済産業省の支援を受け、情報処理推進機構とデータサイエンティスト協会とともに、“デジタルリテラシー協議会”を設立し、官民連携でデジタル人材育成を加速化する活動を開始しました。また、DXの推進のために、行政会員という新しいカテゴリの会員も新設し、行政のDXやAI活用、また人材育成等の支援を開始しました。

人材育成にも引き続き注力しました。G検定・E資格の合格者は、累計で5万人を超えています。G検定よりもさらに間口を広げるべく、昨年5月にはより多くのビジネスパーソンに向けた無料オンライン動画講座「AI for Everyone すべての人のためのAIリテラシー講座」を開設し、1.5万人を超える受講者に見ていただくことができました。

今年4年目を迎える高専DCONも躍進が続いています。昨年の大会での優勝チームの企業評価額は6億円と過去最高評価となり、行政機関におけるCovid-19ワクチンの温度管理のシステム採用の事例も生まれています。高専からの新たなイノベーションを生み出すチャレンジを応援すべく、“DCON Start Up応援1億円基金”を創設し、DCONから誕生した3社に出資を実行しました。

さて、昨年は、政治の世界では、オリンピック後に新政権が誕生しました。岸田総理のもと立ち上がった、「新しい資本主義実現会議」に、私も有識者構成員として参加させていただいていますが、メンバーのなかに、AIやデジタルを専門とする方がたくさんいます。会議では、「成長と分配」の議論が行われていますが、「成長」という観点では、AIを含めたデジタルの人材育成、そしてさまざまな地域からスタートアップを生み出していくことが、まさに最重要の項目です。日本ディープラーニング協会がこれまで行ってきた、先端技術を担う人材育成やスタートアップの創出、そして地域の産業競争力向上が、いまの時代、求められているのだと思います。本協会としては、こういった活動を行ってきたというある種の自負と責任感をもって、今年一年も社会に大きな動きを作り出すべく頑張って参りたいと思います。引き続き、協会へのご支援とご指導を賜れますよう、よろしくお願い申し上げます。

今年一年が、皆様にとって良いものとなりますよう、また、ディープラーニングの技術の進展、そして人材やスタートアップの成長が、日本全体に新しい希望をもたらすことを願って、新年のご挨拶とさせていただきます。