2020年10月17日(土) に、CDLE HACKATHON 2020の表彰式が開催されました。表彰結果と受賞作品について、当日の様子を交えレポートいたします。
CDLE HACKATHONはG検定 / E資格合格者 (CDLEメンバー) のみが参加できるハッカソンイベントです。両資格保有者のスキルアップ機会と実践の場、企業とのコミュニケーションの場などの創出を目的に開催され、今年は第2回となります。
昨今のコロナ禍の状況を鑑みて2020年度は完全オンラインイベントとして開催。アイデア部門・予測性能部門の2部門制でアイデアと技術力を競いました。
A : アイデア部門 課題:「DLを活用したNEO e-learning」
B : 予測性能部門 課題:「画像データに基づく気象予測」
当日の表彰ではそれぞれの部門で優秀・最優秀賞を発表したほか、アイデア部門からは企業賞の発表を行いました。
アイデア部門表彰
課題:「ディープラーニングを活用したNEO e-learning」
昨今コロナ禍でストップしてしまっている、さまざまなシーンの教育についてディープラーニングを用いたE-ラーニングのアイデアを幅広く募集しました。
ひと口に教育と言っても、<社内教育・学校教育・リカレント教育>など様々な教育があるなかで、本コンテストではどんな分野に関するアイデアでも応募可能としています。
合計で95作品の応募があり、そのうち10作品が一次審査を通過。最優秀賞・優秀賞に選ばれたのは下記の2作品でした。
最優秀賞: 髙木 幸雄 様 『オンライン学習支援AI』
最優秀賞に輝いたのは、オンライン学習や授業の進行支援を行うシステムのアイデアです。
具体的にはディープラーニングを用いた音声認識や画像認識技術を活用して、生徒側の集中度合いを認識したり、先生の説明に合わせて説明中の内容を画面上でハイライトして集中を助けるといった機能を提供します。
現在コロナの影響で、長期に渡ってオンライン授業・学習を継続せざるを得ない状況です。
そんな中で髙木様は、現場の教育者たちが「非対面で生徒の表情や視線を感じられず困っている」という状況に注目したそうです。
たとえば対面授業で教えているとき、教師側は生徒たちの表情や反応をみて「ここは分からないのかな?」「集中が途切れているかな?」などの状況を判断します。しかしオンライン授業ではそうした判断ができず、「自分の説明がどれぐらい生徒に届いているか」「理解度がどれぐらいなのか」が分からないのです。
これは裏返せば生徒の方も、理解度・集中度が低い時に対面なら受け取れるフォローがなくなるので、先生の説明に付いていくのが難しくなるという難点があるということです。
こうした状況をふまえ「非対面でデータが取れるからこそ、上手くデータを活用できないか?」と考えたのが着想のきっかけであったそうです。双方向のデータを読み取り活用すれば、教える側と教わる側のそれぞれがフィードバックを得て・活かすことで授業の改善まで目指せます。
今後オンライン授業が広がり継続される見込みがある中で、ディープラーニングを「学生たちや学ぶ方々の学びを止めない」ために役立てれば社会的にも非常に大きなメリットがあると評価され、最優秀賞の受賞となりました。
優秀賞 チーム名: BLACK RABBITS 『知の聖堂』
『知の聖堂』は、画像認識や音声認識を利用し、世界遺産や美術作品についてデジタル空間で学習できるというアイデア作品。「世界遺産や美術作品を見に、現地に行きたくても行けない」という今の世の中にぴったりのアイデアとして評価を受けました。
プレゼンの動画も非常にクオリティが高く素晴らしかったのも評価に繋がりました。アイデアの実現性をしっかりとアピールしたうえで、プロダクトを使って学習したいと思わせるプレゼンテーションでした。「アイデアを凄くスケールさせるような方に思い切り振ったアイデアで、評価されたことを嬉しく思います。」と受賞のコメントを語りました。
企業賞
ファーウェイ賞
ファーウェイ賞では、以下3つの観点で評価し表彰アイデアを決定しました。
1)新規性:日本/中国などで未だ行われていないサービス、アイデアとしてはあまり知られてない、容易に考えつかない
2)社会的なメリット, 社会に役に立つ:例えばEdgeで処理をしてCloudとの通信量を減らすなど
3)実現性:プライバシーデータの制約や集約など
・三木健太朗様 『Deep Coaching』
多くの作品が受講者側を採点するアイデアだった一方で「教える側の採点をする」という新規性に富んだアイデアでした。Youtuberなどレクチャー系教えるコンテンツが増え、教える側のスキルアップを図れることが社会的メリットの大きいサービスになると評価を受けました。
・チーム名:THSS 『みんなちゃんと理解してる?』
受講者側の理解度判定。映像を送らず、PC側で理解度をメタデータ化してそれをクラウドに送る。通信量を抑えて活用できるため、社会的なメリットが大きい。将来的にはエッジAIを使って、さらに高度な機能をパソコン側で搭載することも考えられる。
ベイカレント賞
・中浜義直 様 『環境リサイクルE-ラーニング』
カメラでゴミを撮影をし、分別の内容についてクイズ形式で答えていくことによって環境リサイクルに関するリテラシーを高めていってもらう作品です。
課題の設定にあたってSDGs的な観点でディープラーニングに目を付けており、社会変革に貢献し得るとして高い評価を受けました。ゴミの自動分別システムなどにも応用できるポテンシャルも、評価のポイントとなっています。
・チーム名:AI Top Runner@CUBE『ディープラーニングによるテクニカルライティング研修』
テクニカルな文章を採点およびアドバイスするシステムです。ライティングという少しニッチかつ、社会人として重要なテーマに目をつけた課題の設定が素晴らしいと評価されました。
専門的な文章は少し油断をすると論理的でなくなったり、文章が長くなったりする難しさがあり、テクニカルライティングを向上させたい需要は様々な企業・業界にあります。「完成したら自社に導入したいなと思ったほど」と表彰したベイカレント社よりコメントもありました。
予測性能部門 表彰
課題:「画像データに基づく気象予測」
予測性能部門では、過去に撮影した雲の動きの画像データから、未来の雲の動きを予測した画像を生成するアルゴリズムの性能を競いました。技術的には「96時間分の過去の画像推移を元に、24時間先まで予測画像の生成を行う」と、かなりチャレンジングなタスクになっています。
SIGNATEのコンペサイト上で募集を実施し、141名が参加。うち10名(またはチーム)が一次審査を通過しました。
使用するデータは、雲の動きを捉えた衛星画像データと気象データ(株式会社ウェザーニューズ提供)を利用。各写真に対応する気象データ(気温・気圧・湿度・風速等)があることで、画像データと組み合わせての使用も可能としました。これにより気象に関する専門的なデータも生きるようなタスクになっています。
評価にはSSIMという評価関数を使用し、輝度平均・コントラスト・構造などの観点から「正解画像」と「予測画像」の類似度を算出する形式で、141名・25チームが参加し競いました。
結果として上位争いは非常に拮抗し、特に受賞となった1位2位は僅差の勝負になりました。
さらに、2者が課題に対してとったアプローチが大きく違うことも非常に面白い結果となっています。
最優秀賞:
木村 克行 様 最終スコア:0.548515123491628
いわゆるセグメンテーションのタスクとして解いています。与えたスナップショットの画像を領域認識という形で捉えています。使用している活性化関数が今年7月の論文で発表されたばかりのもので、新しい技術にチャレンジしている点も特徴的です。
優秀賞:
鈴木 淳哉 様 最終スコア:0.547316810495245
いわゆる自然な解釈においてタイムシリーズの問題として解き、時系列の流れの中で雲の分布を予測しています。精度を出すアプローチとしては、アンサンブル学習を使いながらロバストな推定を行っています。
利用したディープラーニングの手法と、予測結果は画像の通りとなります。
大会を総括して(審査員/JDLA理事 佐藤聡 氏)
「AI=蜃気楼を追う途中で見つかった、ディープラーニングという重要技術」
AIは技術者にとって「砂漠で遠くに見える蜃気楼のようなものじゃないか」と個人的に思っています。
蜃気楼があると思って皆さん興味を持って歩いていく、すなわち開発を続けていくのですが、いざ行ってみると「求めていたAIと違うとわかる」などということが今までに何度も繰り返されています。
特に技術者としてキャリアの長い方々はAIブームを以前にも経験されているでしょう。しかし「その時々で人々が思い描いていたAI」が見つかったことというのは、実は今まで無かったかと思います。
ですが、代わりに別のものが見つかって、AIではない別の名前が付けられています。例えば画像認識だとか、音声認識であるとか、時系列データ予測だとか、異常検知とかですね。
AIを目指して進んでいくと、だんだん思い描いていたAIではなくて、別のモノとして正体が見え・名前がつけられるということです。
そうして何かが見つかった後は、またおぼろげながら先の方に違うモノが見えてきて、また追いかける。こうしたことが繰り返されているのかなと思います。直近の第3次といわれるAIブームでは、ディープラーニングという非常に素晴らしい技術が見つかったんじゃないかなと。
ディープラーニングは重要なキーテクノロジーです。将来振り返った時には「ディープラーニングは非常に重要なマイルストーンだったな」と振り返られる技術ではないでしょうか。
「 アイデアと技術の両輪を回すことが重要であり、CDLEメンバーはそれを担う。」
今回ハッカソン開催にあたり「ディープラーニングを実際に社会にどう貢献させていくか?」という具体的なところを実装・具体化して頂く計画を致しました。
技術自体はもちろん重要ですが、技術を「どのように / 何に使っていくのか?」というところも同じく非常に重要です。そこで今回は本来ハッカソンとしては少し異質なアイデア部門と、純粋に性能を競う予測性能部門を設け、2つの側面をカバーできる形式でハッカソンを開催させていただきました。
技術の大切さは皆様ご存じかと思いますが、「何をしたいのか?」も非常に重要です。
「夢を求めて何がしたい」とか「こうであったらいいな」ということを強く想うというのは、非常に重要ではないでしょうか。なぜならディープラーニングはそうした想いを叶えるために出てきた道具だからです。しかも「今まではできなかったが、ディープラーニングも用いたらできるかもしれない」という可能性を大いに感じさせる技術です。
まずアイデアがあって、それを高度な技術で実装する。これらの両輪が回って、世の中が良くなっていけばいいなと考えております。皆様はアイデアを出すときにも、実装をしていく際にも、どちらでも非常に重要なメンバーです。次回、形式は未定ですが、ハッカソンを開催していくと思います。ぜひ奮ってご参加をお願いしたいと思います。本日はありがとうございました。
CDLEハッカソン実施概要
■主催・運営:
日本ディープラーニング協会(JDLA)
■概略:
G検定/E資格の知識を活用したデータ活用アイデア創出およびAIモデル開発
■イベントページ:
■審査員:
齊藤 秀 氏
・株式会社SIGNATE 代表取締役社長CEO /CDO (Chief Data Officer)
・筑波大学 人工知能科学センター 人工知能基盤研究部門 数理アルゴリズム分野 客員教授
・国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野 客員研究員
Shixiang Shane Gu 氏
・グーグルブレイン研究員
・JDLA有識者会員
佐藤 聡 氏
・connectome.design株式会社 代表取締役社長
・JDLA理事
南野 充則 氏
・株式会社FiNC Technologies 代表取締役CEO
・JDLA理事
森 正弥 氏
・デロイトデジタル 執行役員
・株式会社メルカリ R4D 顧問
・JDLA顧問
山下 隆義 氏
・中部大学 工学部情報工学科 准教授
・JDLA有識者会員
■スポンサー:
<協賛スポンサー>
華為技術日本株式会社
株式会社ベイカレント・コンサルティング
<リソーススポンサー>
株式会社SIGNATE
日本マイクロソフト株式会社
武蔵精密工業株式会社
株式会社ウェザーニューズ