AIの力を最大化するコツは、精度に縛られず使いこなすこと

「ディープラーニング×ビジネス」活用事例紹介 #1

AIスタートアップの株式会社GAUSSはディープラーニングを使った様々なITサービス、ソリューションを提供している。2021年10月には渋谷区、KDDIと共同で、ハロウィーンの渋谷の人流を予測する「ハロウィーン人流予測プロジェクト」を行うなど、社会課題解決のための取り組みにも力を注いでいる。

今回は、GAUSSの代表取締役社長の宇都宮綱紀さん、取締役副社長の長谷川正平さん、営業企画本部の小田将輝さんの三人に、同社の取り組みや、ディープラーニング活用の勘所を聞いた。

GAUSS(JDLA正会員社)

事業内容:AIパッケージ共同開発/コンサルティング/公営競技予想AI
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2017年5月2日
https://gauss-ai.jp/

「想像した未来を創造する」をミッションに掲げて躍進するAIスタートアップ企業

―GAUSSの事業内容と、創業の経緯を教えてください。

長谷川:2017年に創業して、現在5期目です。ディープラーニングを使ったソリューションやパッケージの開発、AIシステムのコンサルティングなどを提供しています。

 ミッションに「想像した未来を創造する」を掲げて、様々な企業様の新規事業のイノベーションや、経営課題解決のサポートをしています。これまで情報通信業や小売業、製造業など様々な業種・業態の企業様とお取引をしています。

宇都宮:創業のきっかけは、個人で競馬のレース結果を予想するAIを作り、SNSで公開して話題になったことです。当時は富士通内のAIで新規事業を作る部署にいました。SEとして在籍していたのですが、実際に製品を開発する立場ではなく、営業と一緒に顧客先に行って商品を売るのが私の役割でした。

 どうしても商品開発に関わりたかったので、当時話題になっていたディープラーニングを使って何かできないかと考え、自分で競馬予測AIを作りました。ちょうど囲碁や将棋でAIエンジンがプロに勝った、というニュースが頻繁に話題になっていた時期ということもあり、私の競馬予測AIもSNSで話題になったんです。ある程度の手応えを得ることができたので、「これを業務としてやらせてもらえないか」と会社に掛け合いましたが、駄目でした。そこで自分で起業して競馬予測AIをリリースすることを決め、GAUSSを創業しました。

―現在もGAUSSでAI競馬予測エンジンを提供されていますが、元々競馬がお好きだったのですか。

宇都宮:いえ、全く詳しくありませんでした。単純に、「ディープラーニングで競馬の予想をしたら、高い確率で的中するのではないか」と直感的に思ったことがきっかけです。GAUSSを創業してからは、競馬に詳しい方にも相談して利用するデータを決めました。

 現在、スポーツニッポン様には当社が独自に開発した「AI競馬予想SIVA」の予想を、日刊スポーツ新聞社様とは「ニッカンAI予想」を共同開発して予想を提供させていただいております。

―どんなデータをディープラーニングに学習させているのですか。

宇都宮:過去20年のレース結果と、競走馬の血統、ジョッキーのデータなどです。

ディープラーニングで社会課題の解決を

―2021年10月に渋谷で行った「ハロウィーン人流予測プロジェクト」について教えてください。どういう経緯でスタートしたのでしょうか。

宇都宮:元々渋谷区とJDLAさんに繋がりがあり、なにかディープラーニングで社会課題を解決する取り組みができないか、といったお話があり、JDLAさんから我々にお声がけいただきました。渋谷区の方からいろいろお話をうかがう中で、ハロウィーンの混雑に悩んでいることが分かり、ではディープラーニングを使って人流を予測しましょう、ということになりました。

長谷川:今回はKDDI様とも共同でハロウィーンの混雑という社会課題の解決に取り組んでいます。KDDI様はそもそも、仮想空間に魅力的なスペースを作って人をそこに誘導することでハロウィーンの混雑を解消しよう、という取り組みをされており、まずはその前段で実際にどれくらいの人が渋谷に集まるのかを予測しようということになりました。今回は予測の肝となるデータとして、KDDI様からご提供いただいた人流データを使っています。

―KDDIのデータの他に使ったデータはあるのでしょうか。

小田:はい。KDDI様から頂いたデータの他に、天候や緊急事態宣言の有無、コロナの感染者数、大規模イベントの有無といったデータを紐付けました。

―大規模イベント、というのはどういった規模のものを指しているのですか。

小田:渋谷では、多くの人が集まって混乱が予想されるような場合に警備員が配置されます。ハロウィーンや年末年始などがそうですね。そういった警備員が配置される規模のイベントについて、人流を学習させました。

―プロジェクトを始める前から、ディープラーニングを使えば正確な人流を予測できる、といった確信があったのでしょうか。

宇都宮:いえ、今回こういったお話をいただいたので、AIやディープラーニングの発展のためにまずはチャレンジしてみようということが大きかったですね。どこまでできるかは分かりませんでした。

小田:当初、2019年7月~2021年6月末までの人流のデータをKDDI様からいただき、10月初旬にリリースで発表するつもりで予測に取り掛かりました。しかし、8月頃になってコロナの感染状況が大きく変わったことなどを受け、出来るだけハロウィーン期間に近い日付のデータを使って予測をしたいと考えました。そこで、KDDI様から2021年8月末までの人流データを追加でいただき、発表も後ろ倒しにしました。

―予測と、実際の人流を比較した結果はいかがでしたか。

小田:10月30日と31日で比較した場合、10月30日19時から31日の4時までの9時間は、誤差約10%の範囲に収まりました。ですが、31日は昼に雨が降った影響もあってか、予測と大きな乖離が出ました。我々の予測では、30日と31日の両日とも天気を晴れとして予測を行っていましたので。

宇都宮:人流データに使うGPSは、人が建物の中に入ると計測できなくなってしまうという課題があります。そのため雨天の場合、そもそも渋谷に来る人が少なくなるというだけでなく、建物の中にいる人が増え、計測値が実際に渋谷にいる人数よりも更に少なくなってしまう、という難しさがあるんです。

―より正確な人流予測を出すには、天候やコロナの感染状況などについても正確に予測したり、建物内にいる人数も正確に把握できる仕組みが必要になるということですね。来年以降もプロジェクトは続くのでしょうか。

長谷川:まだ決定してはいないのですが、先日あるトークショーで渋谷区の方が「是非来年に繋げていきましょう」と仰っていらっしゃいましたので、続く可能性はあるのかなと感じています。

小田:来年以降も続くのであれば、人流予測だけでなく、それをビジネスや社会課題の解決に繋げていけたらと考えています。例えば、困っている飲食店の方の助けになるようなデータを出せれば、少なからず社会課題の解決に繋がるのではないかと思います。

AIとカメラを組み合わせた「GAUDi EYE」

―ほかにもディープラーニングを活用したサービスがあれば教えてください。

宇都宮:ディープラーニングと監視カメラを組み合わせた「GAUDi EYE」というサービスがあります。従来は人が目で見て判断していたことを、AIが代行するサービスです。例えば、店の中がどれだけ混んでいるか、席が埋まっているか、といったことをAIが自動で認識します。このデータをホームページなどで公開すれば、顧客は来店前に混雑状況を知ることができます。我々はカメラの設置・設定から、実際に業務に活用するまでの全ての工程をサポートします。

―店舗以外でも用途があるのでしょうか。

宇都宮:フリーアドレスのオフィスで、時間帯によってどれくらいの人が利用していて、最大で何割の席が埋まるのか、といったことが分かります。「だいたい使用率は30%くらいだから」といった具合に判断して、オフィスの縮小などを決めてしまっているケースは多くあると思います。その場合、席を減らし過ぎて座れない人が出てきたり、その反対に余裕を持たせ過ぎて十分な削減効果を得られない、といったことが起こり得ます。GAUDi EYEを使えば、定量的なデータを基に判断ができるため、そういったミスを軽減できます。

長谷川:路上でイベントを行った際に、どういった人が集まったかを自動で集計して効果測定を行う、といったことも可能です。人数に加え、年代や性別も識別できますので、マーケティングなどに有効に活用できると思います。

―店舗で混雑状況を記録し続けると、混雑状況の予測もできるようになりそうですね。

宇都宮:そうなんです。今後は予測機能も追加し、飲食店情報のサイトと連携するなどしてアウトプットをビジネスに生かせるようにしていけたら、と考えています。

企業内にAI人材を育成することが大切

―企業がディープラーニングを活用する場合、どういったことに適用すると効果が発揮できますか。

宇都宮:現状では多くの場合、コスト削減に使われています。これは私の希望でしかないのですが、コスト削減よりも売上の増加に繋がるようなイノベーションに使ってほしいと思います。コストの削減は非常に重要ですが、その部分は既に多くの企業が成功しているので、それだけでなくもっと新しい部分にも使ってもらえたらと願っているんです。

―どうしてイノベーションにはディープラーニングがなかなか使われていないのでしょうか。

宇都宮:「ディープラーニングやAIは機械なので、精度100%を求めるのが当然」、とお考えの方が多いのが理由だと思っています。しかし、私が思うディープラーニングの強みは、80%くらいの精度で人間の判断をサポートする結果を出せるところです。ディープラーニングで全てを自動化するのではなく、判断材料になるような結果を出して、それを使って人間が優れた判断を下す、という形で活用していただけたらと思います。

例えば、自動運転のように全てをAIで自動化して100%安全にするのは難しいですが、越えてはいけない車線を越えそうになった時にアラートを出す、といった機能だけでも十分有用ですよね。

店舗の棚にどういった商品を置くかについても、ざっくりとした配置をAIに提案させ、その中でより良い配置を、経験などを踏まえて人が考える、という利用方法で十分に成果が出せると思います。

―そういったことを踏まえてAIを活用できるようになるためには、導入企業の方もAIを学ぶべきなのでしょうか。ITベンダーから提案を受ければいいのでしょうか。

宇都宮:やはり、インハウスでAIに強い人材を育てるのが重要だと思います。我々もAIのコンサルティングを提供していますが、業務の本質を良く分かっていらっしゃるのは導入企業様自身です。利用者が自ら発想したAIの方が、優れたものになるはずです。ここにいる小田は、三越伊勢丹様から出向で当社に来ています。三越伊勢丹様がこういった取り組みをされているのは、AIに強い人材をインハウスで育てたい、とお考えからだと思います。

―小田さんは三越伊勢丹ではITを担当されていらっしゃったのですか。

小田:いえ、店舗に商品を仕入れるバイヤーをしていました。ITやディープラーニングのことをほとんど理解していなかったので、JDLAさんのG検定(リンク:https://www.jdla.org/certificate/general/)の勉強をして、取得しました。

―どれくらい勉強をされたのですか。

小田:参考書や問題集を3冊買って、2-3ヵ月程勉強しました。

―コロナの影響もあり、DXという言葉が盛んに使われるようになっています。ディープラーニングについての問い合わせの質が変わった、といったことはありますか。

宇都宮:2018年頃に1度挑戦してあまり上手く行かず、今改めてやってみようとお考えの企業様が多いように感じています。そういった企業様は「以前はすぐに精度を求め過ぎていた」といった具合に、過去の失敗も糧にされています。今回は成功する企業様が多いのではないかと感じています。

―技術的には2018年と変わった部分はありますか。

宇都宮:エッジの部分での処理能力が上がったために、AIカメラなどがその場で処理できることが増えましたね。

―案件も増えていらっしゃいますか。

宇都宮:以前は実証実験だけをやりたい、というお声がけが多かったのですが、今は実導入までいく案件が一気に増えています。